日本よ、カウンターを侮るなかれ-。現在ベトナムでサッカーの育成強化に携わる元日本代表監督のフィリップ・トルシエ氏(63)が23日に電話取材に応じた。今日24日に日本代表が準々決勝(ドバイ)で対戦するベトナム代表についてまだ成長の過程にあるとしながらも、日本に“アジアの洗礼”を浴びせる可能性は決して低くないと展望。FW大迫勇也(28=ブレーメン)の状態がカギになると分析した。

00年アジア杯レバノン大会で日本を優勝に導いたトルシエ氏は昨年8月から、ベトナムのナショナルトレーニングセンターといえる「PVFアカデミー」の強化責任者として、ベトナムサッカー連盟と連携して育成強化に携わる。日本との1戦を前に、その声色は低く、冷静だった。

「10試合すれば9試合は日本が勝つかもしれない。ただ、その“1試合”を心配するべきかもしれない」

23歳以下の選手を中心に編成された若いベトナム代表は1次リーグで優勝候補のイランと対戦。0-2で敗れたものの、トルシエ氏は前向きに試合を捉えた。「DF陣はすごくよかった。とくに5バックのうちセンターバックの3人はいい。日本戦は、ボールを持っていなくても安心して見ていられるだろう」。そして続けた。「もしベトナムが勝つとしたら、2-1だ」。日本に敬意を示しつつ、ベトナム勝利の可能性も示唆した。

ここまでの森保ジャパンの戦いぶりについて「攻撃でまだ少し戦略がない」と物足りなさを指摘した。「個人プレーで突破できるような攻撃のリーダーがいない。そこをベトナムは強みにできるかもしれない」。ベトナムはとにかく守備に集中し、日本にボールを持たせてカウンターを狙うシナリオ。だからこそ、FW大迫の状態が気にかかる。「まだ日本が攻撃の力を隠しているとしたら…」。トルシエ氏は右臀部(でんぶ)痛でまだ1試合の出場にとどまってる大迫の復帰が、カギになると予測する。

ベトナムは昨年8月のジャカルタ・アジア大会にU-23で臨み、U-21で臨んだ日本代表を1-0で破った。当時のメンバーのほとんどが今大会も名を連ね、目標だった決勝トーナメント進出を上回る成績を残して勝ち残った。「『日本は強いけど、負けない』という気持ちを彼らは持っている」とトルシエ氏。世代が違うとはいえ日本に勝った経験、そして失うものはないという心理状態も、後押しすると分析した。「試合前は誰もが日本有利と言う。ただサッカーは計算じゃないから、結果は誰にもわからない」。とにかく試合を見てみようじゃないか-。どこか自信を感じさせる言葉を残し、電話は切れた。【取材・構成=岡崎悠利】

◆フィリップ・トルシエ 1955年3月21日生まれ。パリ出身。現役時代はフランス2部でDFとしてプレーし、28歳で引退。ナイジェリア代表監督として98年W杯予選を突破し、本大会では南アフリカ代表を指揮し、大会後に日本代表監督に就任。02年W杯日韓大会でベスト16に進出。カタール、モロッコの代表監督を経て、08年から当時JFLのFC琉球総監督を2年務めた後、中国やトルコなどのクラブを指揮。現在はベトナムの財閥が運営するサッカーのトレーニング施設のシニアディレクターとして、若手選手や指導者の育成に尽力している。