新型コロナウイルス感染拡大の影響で、国内外のサッカーリーグ、代表の国際試合は中断、中止を余儀なくされている。

生のサッカーの醍醐味(だいごみ)が伝えられない中、日刊スポーツでは「マイメモリーズ」と題し、歴史的な一戦から、ふとした場面に至るまで、各担当記者が立ち会った印象的な瞬間を紹介する。第3回は13年ブラジル戦。

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子供たちの教材になった試合がある。13年6月15日、コンフェデレーションズ杯日本-ブラジル戦(ブラジリア)。日本はザッケローニ監督の下、本田、香川、遠藤らを中心に小気味よくパスをつないで攻撃を組み立て、そのスタイルも洗練されつつあった。チームは自信を深めていたこともあってか、王国ブラジルに真っ向勝負を挑んだ。だが、その差は歴然。0-3の完敗。データから試合を分析検証した。

サッカー分析会社「データスタジアム」が配信する膨大なデータの中でも最も差が顕著だったのが「トラップ」だった。成功率は日本89%、ブラジル95%と最初は大差がないように思えた。だが、それをエリア別に見ると精度の差がより鮮明になった。敵陣ゴール前の攻撃側エリアに限れば、ブラジルの90%に対して日本はその半分以下の43%。確かに日本は肝心のゴール前でトラップミスを連発し、一方のブラジルはトラップ1つで違いを見せつけた。

後半5分、本田が巧みなボールキープからゴール前に抜け出そうとした岡崎にスルーパスを出した。だが岡崎はペナルティーエリア(PA)手前付近でトラップミスし転倒。好機をつぶした。一方のブラジルは後半3分にパウリーニョが右からのクロスをPA内の密集地帯で鮮やかにトラップ。そのさじ加減で自らシュートコースを切り開き右足でゴールを決めた。

後日、試合を見てトラップ技術の差を感じたという、あるサッカー指導者から連絡を受けた。「紙面に出ていたデータを子どもたちの指導に生かしたい」と。よりプレッシャーのかかるゴール前でいかに落ち着いてプレーできるか。注目のブラジル戦は、トラップの大切さをより分かりやすく伝えるため、最高の教材になるとのことだった。

あれから7年。日本はリバプールの南野、Rマドリードからマジョルカに期限付き移籍している久保ら若い世代が台頭した。日本代表でも活躍する彼らはトラップミスが少ない。ゴール前で落ち着き払い、次のプレーに移りやすい位置にボールを「止める」のではなく「動かす」。まるで自らにパスを出すかのように。そのトラップ1つで違いを生み出す選手が今、海外のトップリーグでさらなる飛躍を目指している。【石川秀和】