サッカーの国際親善試合日本-ブラジル戦から一夜明けた7日、ブラジル代表セザール・サンパイオ・コーチ(54)が日本代表に「金言」を送った。ブラジルを本気にさせ、焦らせた日本の組織力を称賛。今後のキーマンには三笘薫と伊東純也を指名した。日本で7年間プレーした親日家が、W杯で強豪スペイン、ドイツと戦う日本へ、アドバイスとともに、大きな期待感を示した。

激闘の翌日、チチ監督と都内のブラジル領事館を表敬訪問したサンパイオ・コーチが宿泊先ホテルの自室で日本戦を振り返った。本音トークは熱を帯び、当初の予定より1時間オーバーして1時間半にも及んだ。

サンパイオ氏 昨日、ある記者から「本気を出さなかった」との質問があった。とんでもない。ブラジルは前半どんどん押し込んだが、得点できなかった。まずい展開だったね。後半に入って焦りがあったし、疲れも出た。日本は7、8人パラグアイ戦からメンバーを入れ替えたけれど、ブラジルは韓国戦から中3日であまりメンバーをいじっていない。後半はどちらが点を決めてもおかしくなかった。

しかし日本は得点できなかった。枠にすらシュートを飛ばせず結局、PKを与えてしまった。

サンパイオ氏 そこが日本の弱点かもしれないね。日本は得点力不足とよく言われるけれど、それはゴール前で焦ってしまうからなんだ。素早くシュートを打たないと相手に詰め寄せられる。早くパスを出さないと、相手が戻ってしまう。パススピードを速く、とにかく速く、速く。この焦りが精度を落としてしまう。ゴール前の落ち着きが足りない。その焦りにブラジルは助けられたね。

それでは、なんでブラジルは日本に苦戦したのか。実力ははるかに上なのに。

サンパイオ氏 そこは森保監督の緻密な戦略にはまってしまったね。両サイドの長友と中山に加え、遠藤と田中は常に後ろでスペースを消していて、我々がプレーできるスペースを与えてくれなかった。特に長友は「前に行くぞ、いくぞ」と見せかけながら、結局行かない。さすがベテランだね。完全にはめられた。

ブラジルは18本ものシュートを打った。そのうちPKを含めてゴール枠を捉えたのは5本。シュートの精度の高いブラジルにとっては珍しいほど、実は枠に飛んでいない。

サンパイオ氏 アルゼンチンやコロンビアは1発のある選手がいる。確かに個々の選手の能力は高いが、チームとしてのまとまりに欠けるから、あまり怖くない。今回の日本-ブラジル戦を振り返ると、日本はシュートブロックが7本くらいあった。体や足を伸ばして我々の枠に飛ぶシュートを阻止した。こういう必死なチームは怖いし、日本のストロングポイントだよ。闘う集団でないと、こんなにブロックはできない。

サンパイオ・コーチは試合前に吉田、長友、遠藤、伊藤の名前を挙げた。実際に試合をして印象はどう変わったのだろうか

サンパイオ氏 三笘と伊東は日本の将来を担う選手になるはず。ただ彼らに足りないのは、経験だね。経験とは、ゴール前の落ち着き。速くプレーしようとしすぎている。彼らに余裕が生まれれば、今まで見えなかった相手の隙や仲間の動き、ゴールへの道が見えてくるはずだよ。ブラジルにも速いだけの選手は何人もいる。でも落ち着きがないと判断が狂う。当然、セレソン(代表)にはなれないし、残念だけどそのうち消えてしまうケースも多い。

日本はW杯でスペイン、ドイツ相手に勝ち点を挙げないと次のステージにコマを進めることはできない。

サンパイオ氏 昨日の試合ができればチャンスが十分あるはず。よく人間は「なんで自分だけ不幸だ、自分だけ失敗ばかり。なんでうちの家族はケンカばかりしてるのだろう。隣の家は幸せそうなのに」と思いがちだが、それは相手も同じだよ。不幸だと感じてるし、ケンカもする。スペインもドイツも失敗はするし、ブラジルだって同じさ。森保監督は素晴らしいチームをつくった。レギュラーとサブの質がほぼ互角だったしね。自分たちが歩んできた道が間違ってなかったことをW杯で証明してみせればいいんだよ。

でも結局、日本は守備的な戦いを強いられることになる。試合としておもしろくない時間帯が長く続くのではないだろうか。

サンパイオ氏 今季欧州CLを優勝したレアル・マドリードは90分攻め続けてはいないでしょう。思い出してほしい。レアルは守りの時間が攻めの時間より長かった試合が何試合もあったよ。そこを耐えたから、攻撃に転じた時に相手は焦るわけだし、ミスもする。攻撃は日本の課題ではあるが、世界トップのどのチームも前半を0-0で終えると、ゲームプランに狂いが生じるし、自然と焦りも出るんだよ。そこでチャンスが生まれるさ。

それにしても得点力不足は否めない。守るばかりでは引き分けることはできるかもしれないが、勝つことはできない。

サンパイオ氏 我慢強く努力することは、いつか花開く。僕は2年半前にブラジル代表のアルバイト・コーチとしてチチ監督に呼ばれた。3試合テストされてさらに3試合追試があった。戦術勉強のために大学にも通った。その結果、ようやくコーチとして本契約にたどり着くことができた。コツコツと努力すると、いつか報われる。しかも日本は個の力より協調性がたけている。1人1人の努力が合わされば、花開く時期は意外と早く訪れるかもしれないよ。

森保監督の戦術はどうだったか。守備的すぎることで非難を受けることもあるが。サポーター受けもあまりよくない。

サンパイオ氏 彼はブラジルの長所を消すサッカーをやったね。常に6人は守りに比重を置いていた。サッカーはバランスが重要だが、強い相手との対戦では、そのバランスを崩してでも相手に自由を与えないことが大事だ。そういう意味で、森保監督はブラジルが最も嫌がる戦略でうちを苦しめた。指揮官として正しい選択だし、だから我々も後半途中から「負けることもある」との言葉がよぎったと思うよ。指導者としての能力は、オレは高く評価している。【取材・構成=盧載鎭】

◆セザール・サンパイオ 1968年3月31日、ブラジル・サンパウロ生まれ。17歳の時だった86年サントスFCでプロ契約しカズ(三浦知良)と同期。90年11月チリ戦で代表デビューし、98年W杯フランス大会出場したボランチ国際Aマッチ68試合7得点。95年横浜Fに移籍、柏、広島でもプレー。J1では156試合16得点。J2では41試合5得点。03年引退。引退後は解説者やパルメイラスのGMなどを歴任。夫人と3女。

 

◆6日のブラジル戦VTR 粘り強い守備を見せた日本は後半途中まで無失点で耐えた。中盤で原口らが厳しく寄せ、ゴール前では板倉と吉田が体を張り、GK権田も好セーブを見せた。後半からは途中出場した三笘のドリブルなどでゴールに迫ったが、決定機はなかった。同32分に遠藤が相手を倒して与えたPKをネイマールに決められ、そのまま逃げ切られた。