プレーバック日刊スポーツ! 過去の8月29日付紙面を振り返ります。1999年の1面(東京版)は、カズ2発 キングが日本に帰って来た!!京都で10カ月ぶりゴールでした。

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<J1リーグ:京都3-1神戸>◇1999年8月28日◇西京極

 カズ(三浦知良=32)が、京都で復活した。移籍後初のリーグ戦、神戸戦(西京極)の後半8分にヘッド、31分に右足で連続得点。満員1万5075人スタジアムで、チームに3-1の勝利をもたらした。カズのリーグ戦復帰は294日ぶり、得点は329日ぶり。緊急入院中の加茂周監督(59)に贈るカズの完全復活劇だった。

 背番号「36」が主役だった。カズがこれ以上ない完全復活劇を演じた。京都でのデビュー戦を、2ゴールで飾った。チームも3-1の完勝。今季初めて1万人を突破したスタジアムに、カズの雄姿が浮かんだ。

 「オレ自身が、勝ちたかった。1勝できたことが、一番うれしい」。カズは正直に胸の内を口にした。「ホッとしています。京都に貢献できました」。200人の報道陣を前に、再び安どの表情を見せた。

 後半8分、シーラスの右CKに反応した。相手DFのタイミングを外して、ジャンプした。ジャストミートのヘッドは、昨年10月3日の市原戦以来329日ぶりの歓喜弾。Jリーグ出場は同11月7日の鹿島戦以来294日ぶりだった。

2点目も個人技が生きた。31分にカズが右サイドのFW三浦文にパス。そしてゴール前に突進した。三浦文のシュートを相手GKがはじいた次の瞬間、カズが右足で押し込んでいた。ゴールに対する動物的カンが、結果に表れた。

 ゼロからの再出発だった。24日に京都入りしたカズはクラブが用意した高級マンションを断り、独身選手が住む借り上げマンションに引っ越した。2LDKにはテレビとベッド、テーブルしかない。それでも「これだけあれば十分。ここはサッカーに集中できる」と、京都・城陽市内の簡素な新居を喜んだ。

 時代や価値観は違っても、カズには15歳で渡ったブラジル時代の苦境が財産になっている。当時同じ留学生だった京都チーム統括部の霜田正浩氏(32)は「いつも練習は居残ってやっていた」。26日の練習後は、シーラスとCKの特訓を繰り返した。若手にプロの姿勢を身をもって示した。

 「今日の得点は、過去の実績で取らせてもらった。相手が必要以上に警戒していた」とカズは言った。J通算154試合で93得点。1試合平均0・6点台に乗り、現役選手最高の数字になった。前人未到の100得点にもあと7ゴールと迫った。

26日夜から過労で入院した加茂監督には「勝利を贈れてうれしい。今度、一緒に戦いたい」とメッセージを送った。その直後、京都市内の病院から「テレビ観戦していた。迷惑かけたが、1日も早い復帰をします」と会場にコメントが届いた。しかし、32歳はクールだった。「今日はこれで終わり。自分のレベルを上げて、チームとしても上を目指したい」。キング・カズがこの日、確かに帰ってきた。

 ◆母「肩の荷おりた」

福岡でプレーする兄泰年は、川崎戦(等々力)に0-2で敗れ、カズのゴールにも渋い顔のままだった。「2点取ったのはおめでとうとしか言いようがない。ただ、人の心配をしているような余裕はないですから」と話した。「みんながカズで騒いでるんで」と京都を避けて等々力に観戦に来た母由子さん(54)は「肩の荷がおりました。本当に良かった。気楽にやってくれればと思ってました。クロアチアでは途中出場で、出場時間が短かったけど、カズは長く使われないと良さが出ないから。京都なら応援に行くのも近いし良かったと思います」と笑顔で話した。

 ◆来季も契約したい

京都の実質的オーナーである京セラ稲盛和夫名誉会長(67)が、来季以降もカズと契約したい意向を示した。この日、今季最高の1万5075人で埋まったスタンドを見ながら「たくさんお客さんが入ってくれて、非常にうれしい。彼(カズ)を残留させなかったら、京都市民に怒られます」と話した。また敗れた神戸イレブンからも、カズ絶賛の声が。MF長谷部は「カズさんは、勝負強い星に生まれているんでしょう」。1ゴール決めたMF山口は「さすがです。あそこで決めるのがカズさん」と舌を巻いていた。

 ★川崎MF北沢 えっ、ほんと。今聞いて鳥肌が立ったよ。やっぱりプロだな。男だと思う。帰ってきてから話もしたけど、全部前向きなことだった。日本のサッカーをいい方向に引っ張ってくれたらと思います。

 ★Jリーグ川淵三郎チェアマン (自宅でテレビ観戦)1点目は今までのカズにない難しいシュートで、2点目はさすがと思った。サポーターの方も多く、私としても大満足。体調が万全でないのに結果を出すのはさすがですね。

 ★川崎坂田信久社長 すごい。注目されれば結果を出すのは、やっぱりプロ。

 ★都並敏史(日刊スポーツ解説者) 得点しなければ許されない重圧の中で、さすがの勝負強さだった。特に2点目は、自分に相手をひきつけての、質の高いポストプレーだった。

 ◆カズのJリーグ年度別成績

 年度 所属  試合 得点(右足 左足  頭)

 93 川崎  36 20(12  4  4)

 94 〃   22 16(12  3  1)

 95 〃   26 23(15  7  1)

 96 〃   27 23( 9 11  3)

 97 〃   14  4( 2  2  0)

 98 〃   28  5( 2  1  2)

 99 京都   1  2( 1  0  1)

 通算    154 93(53 28 12)

 ◆リーグ戦通算得点10傑

 順位 選   手(所属)得点

 ※1 三浦知良 (京都)93

 ※2 武田修宏 (市原)89

 ※3 中山雅史 (磐田)88

 ※4 城彰二  (横浜)85

 ※5 長谷川祥之(鹿島)82

 ※6 福田正博 (浦和)81

  7 アルシンド(川崎)79

 ※8 高木琢也 (川崎)64

 ※8 黒崎比差支(京都)64

 ※8 沢登正朗 (清水)64

 【注】所属は現在および最終。

 順位の※は現役Jリーグ選手

 <カズの日本復帰まで>

 ◆ゼロからの出発1998年12月29日、クロアチア・ザグレブと正式契約。期間は1年半で、推定年俸は約5000万円。

 ◆痛恨のPK2月17日、ムラードスト127との初公式戦でPKを外す。

 ◆監督交代4月21日のリエカ戦に敗れたことでザイエック監督が解任、ユース統括部長のロンチャレビッチ氏が新監督に。

 ◆レッドカード5月23日のオシエク戦でサッカー人生3度目の退場処分。優勝を決めた26日のバルテクス戦はスタンド観戦。

 ◆戦力外通告6月25日、元清水のアルディレス新監督から戦力外通告を受ける。

 ◆欧州希望イングランド、スコットランド、マケドニア、クロアチアなど各国リーグのチームからオファーがあるも、交渉はまとまらず。「もう1年は欧州で」との希望もかなわず。

 ◆熱烈ラブコール京都の加茂監督から熱心な誘いを受けて、J復帰を決意。国内公式戦出場は昨年12月23日の天皇杯、名古屋戦以来248日ぶり。

 ▼セルジオ越後氏の話 やはりカズだね、ヘディングもいいシュートだったが、2本目は自分がチャンスメークして右へ振ってセットしたものだ。

京都入り自体は早くから進行していた話だろうが、ラモスの引退試合で帰国したカズが、新しい興奮をJリーグに巻き起こしたことは、興味深い。

振り返ると、カズは「悔しさの充電」のために、過去3回、海外へ出ていったようなものだ。今回も日本では得られない、原点の飢餓感を求めてクロアチアへ行った。その旅行が無駄ではなかったことを、いきなり証明してくれた。

しかも、サッカーファンだけでなく、茶の間を刺激したことは評価したい。彼が不在の間に、彼のカリスマ性を超えるスターが出たかどうかも考えねばならないが、とにかくこの興奮をプラス思考でJリーグ再建につなげることだ。足がつったのは、実戦にまだ慣れていないだけ。心配はないだろう。

(日刊スポーツ評論家)

※記録と表記は当時のもの

※川崎はヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)