決定機は、川崎フロンターレの方にあった。

だが、全体を振り返れば鹿島アントラーズの術中にあった。日本代表のMF三竿健斗は「低い位置になってもみんなで我慢して、最後の最後でやられなければいいと思ってやれていたので、何の焦りもなかった。ボールは相手が握っていましたけど、全体のプランは僕たちの思い描いた通りになっていた。あとは点が取れれば良かったけど、取れなくて、残念です」と悔しがった。

我慢。前半は、これを頭に入れて臨んでいた。

8分に川崎FのFW小林悠に左ポストをたたかれ、36分には、その小林をDFチョン・スンヒョンが倒してPKを与えてしまった。

だが、ここでGKクォン・スンテが絶妙な駆け引きを見せる。PKマークに置かれたボールを見ながら、ゆっくり、ゆっくりと、大ブーイングとフラッグをはためかせてくれるサポーターの方へと下がっていく。

「ゆっくり、わざと意図的に下がりました。ホームでたくさんのお客さんがいて有利なので、わざとゆっくり時間をつくって、相手にプレッシャーをかけて、圧倒するような状況をつくろうと思ってやりました」。

それだけではない。2試合前に、キッカーの小林が真ん中にPKを蹴って外していることも、頭に入っていた。「最後まで真ん中を残しながらも、ちょっと飛びました」。後は読み。左に飛んで、止めてみせた。

アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)準決勝の水原(韓国)戦でやられた立ち上がりを特に注意し、ボールを持たれてもいい、持たせているんだとの意識を持って、前半は耐え抜いた。

そして、迎えた後半。立ち上がりからギアを上げた。主導権を完全に手中に収めた。だが、11分のMF遠藤康のシュートが相手DFの手をはじくもPKを与えられない不運や、後半だけで8本も手にしたCKなど、怒濤(どとう)のセットプレーもあとわずか、生かせなかった。主審の判定に惑わされ、リズムを崩された試合でもあった。

DF犬飼智也は「後半、行ける感じはあったので、そこで1発仕留められる力が、まだ必要だなと思った。あれだけ、セットプレーのチャンスがあったので、こういう苦しいゲームのときに仕留められれば」と悔しがった。

ACLから中3日で臨んだ試合は、過酷だった。勝てば首位川崎Fとの勝ち点差は残り5試合で「8」に縮まる。大逆転のリーグ優勝の可能性が現実味を帯びるかもしれない試合は、真夏のような日差しと気温の中で、10月の試合では異例の「給水タイム」が取られたほど。日本代表MF三竿健斗は「3日あれば回復する」と弱音を吐かなかったが、試合後の控室では誰もが「(暑さが)きつかった」と漏らしたという。

勝ち点は縮められなかった。公式戦の連勝も7で止まった。それでも、ネガティブになっている選手はいない。クォン・スンテは「まだ終わっていないです。優勝への可能性が1%でもある以上、我々鹿島アントラーズは最善を尽くす。最後まで諦めない」。DF内田篤人も「無駄な試合はない。リーグとルヴァン杯とACLと天皇杯…4つ狙えるのはうちらだけだし」。

鹿島の過密日程は、まだ続く。