与えられた時間は「30分」だった。

11日、ノエスタ(神戸市)で行われたJ1第9節清水エスパルス戦。ヴィッセル神戸のDF初瀬亮(23)は、後半15分に途中出場した。

「出た時に、どれだけ仕事ができるか」

0-1と劣勢の展開。それだけを考えていた。

後半42分、見せ場が来た。味方が上げたクロスのこぼれ球。左サイドでトラップすると角度はなかった。

誰か入ってきてくれ-。

そう願い、体を寄せてきた相手DFの股の間を狙った。青写真通り、速いクロスの先でMF古橋亨梧(26)が同点ゴールを挙げた。

「自分の持ち味はあそこ(クロス)。少ない出場時間で、どれだけ結果を出せるか。負けと引き分けは全然違う」

原動力は「悔しさ」だ。今季はリーグ9戦中7戦でピッチに立った。だが、全てが途中出場。確固たる定位置をつかめていない。

日々トレーニングを積む、神戸市内の練習場。選手起用を決める立場の三浦淳寛監督(46)は、初瀬の一貫した姿勢を見てきた。

「誰よりも最初に練習場に姿を現して、クロスの練習をしている。チーム練習がスタートする前に、彼は一汗かいている。練習はうそをつかない」

初瀬は力強く言った。

「まだ(東京)オリンピック(五輪)まで2カ月ありますし、自分は諦めていない。『選ばれた選手より、俺の方ができる』というところを見せていきたい」

3月、U-24(24歳以下)日本代表のメンバーに名前はなかった。東京五輪に向けた、同アルゼンチン代表との国際親善試合。その模様を見つめると、さらに闘争心がかき立てられた。

この日、本職のサイドバックではワールドカップ(W杯)2大会連続出場の酒井高徳(30)、筑波大から入団2季目の山川哲史(23)が先発した。初瀬は自らの思いを隠さない。

「高くん(酒井)は経験もありますが、やっぱりライバル。高くんと一緒のことをしていても、試合には出られない。高くんにないものを、自分は持っている。そこを伸ばすことを意識しています。(山川)哲史もチームメートですが(自分は)誰よりも負けたくない気持ちを試合でぶつけている。ポジション争いで負けたくない」

G大阪の下部組織で育ち、トップチームでも戦った。19年に神戸へ移籍し、同年にはアビスパ福岡への育成型期限付き移籍も経験した。結果への欲は尽きない。同時に成長への努力も怠らない。

「『自分もできる』という自信を持って、これからもやりたいと思いますし、足りないところを高くん、哲史が持っている。経験値がある人のプレーを、吸収してやっていきたい」

その延長線上に、東京五輪はあるはずだ。【松本航】

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