Criacao Shinjuku(クリアソン新宿、東京)が、JFL昇格まであと1勝に迫った。

FC徳島相手に前半19分、鮮やかなミドルシュートを決められ、痛い先制パンチを浴びた。その後も徳島の粘り強い対応に苦しみ、本来の攻撃力を出せない。チームの特徴を研究されていた。ただ焦りはなかった。

1点を追う展開の後半、両ウイングバックを入れ替えた。左サイドの左利きMF瀬川和樹を右へ、右サイドのMF高橋滉也を左へ。この采配が的中し、主導権を握ると同点とするのは早かった。開始3分で右サイドから持ち込んだFW大谷真史が、豪快に右足を振り抜きゴール対角へシュートを突き刺す。1-1とした。

続く21分、MF森村昂太が左サイドからファーサイドへ入れた絶妙のクロスボールに、MF瀬川が飛び込み、右足で押し込んだ。2-1と試合をひっくり返した。その後、追加点こそ奪えなかったが、GK岩舘直(前所属・浦和レッズ)、DF小林祐三(同・サガン鳥栖)ら多くの元Jリーガーを擁するチームは、危なげないゲームコントロールで試合終了のホイッスルへと導いた。2勝1分けの勝ち点7で優勝。来季のJFL昇格をかけた入れ替え戦に進出することになった。

東京・新宿を拠点とする地元チームとあって、この日もバックスタンドとゴール裏に限った一般開放ながら、1650人の観衆が集まった。試合後は多くの声援を浴び、FW大谷ら感涙に浸る選手もいた。

成山一郎監督は「何かを成し遂げようとしたら、なかなかうまくいかないものだという教訓になりました。僕以上に選手たちが冷静でした」と、いつもの穏やかな表情で振り返った。あと1勝で来季のJFLが現実となるが、「大会を振り返れば、至らないところが見えた。引き分けではJFLチームが残留する。だから得点力に反映していかなければいけない」と課題を口にした。

クリアソンはポルトガル語で「創造」を意味する。神奈川・桐蔭学園サッカー部で全国大会にも出場した代表の丸山和大氏が脱サラし、2013年に起業。もともと自分で立ち上げたサッカーチームを持つ中、運営会社の株式会社Criacao(クリアソン)を創業。クラブ運営のほか、学生などのキャリア支援や教育事業、コンサルタント業なども行っており、岩舘や小林ら多くの元プロ選手が社員として働いている。

ホームスタジアムは持っていないが、ことし2月には、将来のJリーグ入りを目指す「百年構想クラブ」にも認定されている。多様性の街・新宿からサッカーを活用しながら豊かな社会の創世を作り出していくことを打ち出し、2026年にはサッカーだけに限ったことではない「世界一のクラブになる」という壮大な目標まで掲げている。

ジュビロ磐田から順大を経て、水戸ホーリーホック、ガイナーレ鳥取に在籍したクリアソン社員のFW岡本達也は、デュアル(二重)キャリアの重要性を語った。

「サッカーだけでは身に着かないこと、そのビジネスで学んだことはサッカーにも生きてくる。仕事もサッカーも、と負荷をかけることは大変ですけど、2つのことをやることで自分が鍛えられる。苦しい時こそ進化できる。それが実感でき、今は楽しくて仕方ない」

この日も先発出場した35歳になるベテラン選手は、生き生きとした表情でそう語った。異なる2つのことを同時に行うことで、新たな回路が生まれ、さまざまな気付きがある。そういう個々の化学反応がチーム力を高め、強固な一体感を生んでいる。ここ数年の快進撃の裏側を端的に表現してくれた。

次は12月中に行われるJFL17位のFC刈谷との入れ替え戦だ。日程、会場は12月5日のJFLシーズン終了後に決まる。関東リーグ初優勝の勢いのまま、攻守にエネルギッシュな戦いで社会人サッカー日本一も手にしたクリアソン。「眠らない街」新宿を拠点とするチームへの注目度は高まるばかりだ。【佐藤隆志】