24年パリ五輪の星が、青森山田を“高校サッカー界のキング”に導いた。U-22(22歳以下)日本代表で東京加入が内定しているMF松木玖生(くりゅう、3年)は3戦連発。

記念すべき100回大会で大津(熊本)を4-0で下し、18年度以来3度目の優勝を飾った。これで全国高校総体、高円宮杯U-18プレミアリーグ東地区との高校3冠を達成。高1から主力で過去2大会は準優勝だったが、三度目の正直を果たした。

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NO・1が似合う。100回大会の決勝、青空が広がる国立で試合終了のホイッスルを聞くと、松木は両手で力強くガッツポーズ。世代を引っ張ってきた逸材は、過去2年は悔し涙を流してきただけに、金メダルを首にかけると、うれし涙があふれた。「自分がこの選手権で悔しい思いを全国で一番していて、このチームで絶対に優勝できると思ったし、まずはチームメートに感謝を伝えたい」。選手権制覇、高校3冠達成を冷静に振り返った。

3戦連発だ。後半10分、左サイドからMF藤森が頭で折り返すと、ゴール前に飛び込み、ヘディングでネットを揺らした。今大会4点目で選手権通算15試合10得点。ピッチに膝から滑り込み、ゴールの余韻を味わった。満身創痍(そうい)だった。準決勝では前半15分に左膝を強打。右膝も限界に近かった。試合前日練習ではボールを使わず、黒田監督は「歩くのが困難なぐらい痛めていた」と証言。気力で90分走り続けた。

“ホスト界の帝王”ROLAND(ローランド=29)を尊敬する人物に挙げる。「強気な発言とかが好きで、自分も強気な発言をしてプレーで見せられたらと思っているので、好きな人です」。もちろん座右の銘はROLANDの代名詞でもある「俺か、俺以外か」。青森山田中時代から高校生に対しても物おじせずに意見をぶつけ、指示を出すなど強心臓ぶりを発揮。「全試合でハットトリック」「高校卒業後は海外」などと強気な発言で自らを追い込み、結果を残してきた。

最高学年で主将に就任すると、持ち前の強靭(きょうじん)なメンタルに自己犠牲の心が加わった。「自分を犠牲にしてでもチームを勝たせたい」。自分が決めなくてもいい。仲間が得点すれば、最初に駆けつけ、満面の笑みで祝福する。今季の青森山田は「全員が主将」の姿勢で、誰に対しても意見を言える環境が異次元の強さを生んだ。黒田監督は「あのずぶとい(松木の)個性に対して、苦言を呈することができたり、意見を言ったりする選手が多い。また、それを聞き入れられる松木もいる」とうなずいた。

3冠を置き土産に新たな道に進む。海外志向が強く、フランスやドイツなどの欧州クラブの練習にも参加。実際にオファーもあったというが、一番成長できる場所として東京入りを決断した。将来的には欧州でのプレーを夢見て、A代表、パリ五輪、欧州CL出場を目指す。“日本サッカー界のキング”になる日は遠くない。【山田愛斗】

◆選手権通算10得点 青森山田MF松木は1年時の19年度大会初戦から全試合に出場し通算15試合10得点。選手権の通算最多得点記録は01~03年度の国見FW平山相太で17得点。2位が94~96年度の市船橋FW北嶋秀朗で16得点。通算10得点は08年度に1大会最多10ゴールを挙げた鹿児島城西FW大迫勇也(現J1神戸)らが記録している。

◆松木玖生(まつき・くりゅう)2003年(平15)4月30日生まれ、北海道室蘭市出身。幼稚園年長時から室蘭大沢FCでサッカーを始め、青森山田中では1年時から主力。U-15、16、17日本代表を経て、現在U-22日本代表。家族は両親と兄。好きな選手はマンチェスター・シティーMFフィル・フォーデン。利き足は左。179センチ、76キロ。

◆高校3冠 青森山田は全国高校総体、高円宮杯U-18プレミアリーグ東地区との3大タイトルを制覇。総体と選手権の2冠は15年度の東福岡以来6年ぶり5校目(7度目)だが、11年度にスタートしたプレミアリーグを含めた「3冠」は初。同リーグの前身の全日本ユースを含めると、97年度の東福岡以来24年ぶりとなる。選手権と総体に国体を合わせた「3冠」は66年度の藤枝東、69年度の浦和南、00年度の国見(長崎代表)が記録している。