藤枝MYFCは今季のJ3で2位に入り、創設14年目で悲願だったクラブ史上初のJ2昇格を決めた。

昨夏就任した須藤大輔監督(45)のもとで超攻撃的スタイルを構築。見る人を楽しませる「エンターテインメントサッカー」で旋風を巻き起こした。今季の県内Jクラブ勢で主役となった藤枝の強さに迫った。

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躍進の原動力となったのはクラブの「一体感」だろう。その雰囲気をつくったのは須藤監督の熱意だった。監督就任直後のミーティングでは「誰もやったことがないサッカーをする」と宣言。3点取られても4点取るスタイルを掲げた。

練習では突拍子もないメニューもあった。例えば、守備が圧倒的に数的不利となる「4対9」のパス回しやフルコートでの「3対3」。戦う上でのベースとなる走力を鍛え、真夏でも同様のメニューを課した。

主将のMF杉田真彦(27)は「信じてついていけば面白いサッカーができると思った」。戦術面では選手のポジショニングなど細かい部分も要求。厳しい練習を積み上げてきた成果は徐々に結果として表れた。7月にはクラブ記録の6連勝。9月以降は約2カ月間負けなしでJ2自動昇格圏の2位を死守した。

MF久保藤次郎(23)も「こんなにやる気を出させてくれる監督は初めてだった」。須藤監督は士気を上げるための言葉選びやタイミングにも気を配った。趣味は読書と映画観賞。愛読書はプロ野球中日監督時代の落合博満氏を描いた「嫌われた監督」で、「自分にしか見えていない景色があるならば、そこを強みにすればいい。そう思えた時から吹っ切れた」。「オレ流」で何度も日本一に導いた名将の生きざまを参考にしてチームを束ねてきた。

昨オフにはベテラン主体だったチームから若手主体に刷新。監督の要望にフロントが応えた形だ。サポーターの存在も大きかった。今季ホーム平均入場者数はクラブ最多を更新。昇格を決めたアウェー長野戦には400人以上が駆けつけ、藤枝では初のパブリックビューイングも開催された。

藤枝市をはじめとした行政も全面協力し、スタジアム改修を早期に進めた。昇格決定後、藤枝市の北村正平市長(76)は「今後も全力で応援していく」とサポートを約束している。

熱血漢の指導に選手が応え、フロントやサポーター、行政がクラブを支えた。来季は清水と磐田と同じ舞台。須藤監督は「序列を変える覚悟で臨みたい」と言った。J2はゴールではなく、新たなスタート。来季もさらなる飛躍に期待したい。【神谷亮磨】