6年ぶりに関東大学サッカーリーグ1部の優勝を成し遂げた筑波大。その躍進の影に、今季から部のテクニカルアドバイザーに就任した元Jリーガーでスポーツジャーナリスト中西哲生氏の存在があった。

同大の谷川聡准教授を介して小井土正亮監督と知り合った中西氏は、4月からアドバイザーとして部に関わるようになった。「もうここに来て、僕も人生変わった。みんな努力する質、クオリティーが高すぎる。なんて言うんですかね、ひたむきさの純度が高いんですよね。だから4月に来てから7カ月しかまだたっていないんですけど、みんなとてつもなく、成長していて僕は逆にびっくりしている感じですかね」。

日本代表MF久保建英(Rソシエダード)や中井卓大(ラヨ・マハダオンダ)といったトップレベルに個人コーチングを行っている中西氏にとっても、学業、サッカーを高いレベルでこなす筑波大の学生との触れ合いは大きな刺激だった。

当初はトップチームの中でも山内翔主将(4年/神戸U-18)ら数人を見ていたが、次第にアドバイスを求める人数が増えて、今は各ポジションの選手が自分の教えを求めてくる。

山内や得点ランキング3位タイの田村蒼生(3年/柏U-18)、カターレ富山入りが決まった瀬良俊太(4年/大宮U18)、U-19日本代表MF徳永涼(1年/前橋育英)らがこぞって中西氏のトレーニングによる成長を口にする。「やっぱもうこれだけ選手に必要とされるっていうのは、めちゃくちゃうれしいっすね。僕もなるべく時間があるときは、もう今全部筑波に来ている」。サッカーだけでなく、講演会やラジオパーソナリティーと多方面で活躍する中、つくばエクスプレスに乗って週に何度も足を運ぶようになった。

知的好奇心の強い筑波大生と、論理性を最も大切にする自身のコーチング理論がマッチした。その指導法は独特だ。

「基本的にいろんなことをいっぱい考えさせるようにしているんですよ。ただ単にシュート打つことはないので、普通のシュート練習はしないです。例えば、一番よくやるのは『キャンセル』です。ボールを蹴る直前に僕が『キャンセル』と言ったら、シュートを打ったらダメなんです。だから彼らはいつも僕と練習する時は頭の中に『キャンセル』があるんで、それだけでも選択肢が2つ必要じゃないですか」

さらにシュートコースにも『逆』という選択肢を持たせるなど、最後の最後まで、蹴る瞬間まで絶対に複数の選択肢を持ってプレーすることを習慣づける。すると普段の試合で余裕が生まれて、クリエイティビティーに生かすことが可能になる。

全体練習後に2時間ほど、さまざまな選手と接する。シュート練習だけでなく、守備やドリブルでも独自の理論で成長を促す。「守備では常に足を出せって言っています。逆に足を出すのをやめるっていう練習はします。右利きの選手って右足でボール取るの得意なんですけど、左足出せないんですよ。足出す練習とドリブルの練習って実は同じ。足出す練習とドリブルで外すっていうのは同じ動き。建英もそれをやっていた。守備の練習をすることによって逆足のトレーニングになる」。

逆足を出せるようにするトレーニングには、テニスボールを使ったものがあるという。中西氏がボールを投げて、キャッチする。「ゴー」と言えば、ボールを取った手と同じ足を出す。「ボールを取った手がいい位置にあると、足が出しやすくなる。肩甲骨がいいところに入らないと足は出せない」。はたから見ると、不思議な練習だ。「哲生さん何やってんだって思うんだけど、やっていたら勝手にうまくなるみたいな練習をしているんですよ」と笑う。

3年春にヴィッセル神戸内定が発表された山内も、中西メソッドによって大きく成長したという。今年2月に第37回デンソーカップチャレンジサッカー大会に出場した際、山内はプレーオフ選抜のコーチを務めた中村憲剛氏から「このままだとプロでは厳しい」と声をかけられたという。山内自身も伸び悩みを痛感していたといい、中西氏に「哲生さん、おれどうしたらいいですかね」と助けを求めてきたという。

山内が振り返る。

「全てのベースをあげたいなっていう中で、哲生さんと出会ったのは本当に大きかったかなっていう風には思っている。ボールを奪うところも、ボールを止めるところも、シュートのところも少しずつはできてるので、そこはすごく良くなったなっていう風には思ってます」

早々にプロ入りを決める中で、伸び悩みの原因が自分でも分からなかった。「それが実際わかんなかったっていうのが一番難しかった。自分の中で何をやればいいかわかんなかったのが、哲生さんと出会って、何をやればいいかがすごくクリアになった」。姿勢や呼吸など細部に目を向けて地道に取り組んだ。優勝を決めた4日の東京国際大戦では、苦手だった左足で何度もボールを刈り取る場面があった。攻撃でも中盤の底でボールを奪われず、チームの安定剤として存在感を発揮した。

確かな成長を実感している。9月には、パリオリンピック世代のU-22日本代表に初めて選出され、中国・杭州のアジア大会で準優勝した。「まだまだですけど、この半年で少しは成長したかなと思うし、それがこの試合でちょっとでも出たかなっていうのは、自分では思っている。少しずつですけど」。中西氏への感謝は尽きない。【佐藤成】