日本代表FW久保建英(21)がレアル・マドリードと契約を結んだのは19年夏だった。それ以降、期限付き移籍でマジョルカ、ビリャレアル、ヘタフェ、そしてマジョルカと渡り歩きスペインでのキャリア3年目を終えたが、今季の去就も期限付き移籍が濃厚となっている。

そこで移籍先の有力候補として、過去2季にわたり獲得を狙ってきたレアル・ソシエダードの名を再びさまざまなメディアが挙げ始めている。久保獲得はスポーツディレクターを務めるロベルト・オラーベ氏たっての希望であるとのこと。スペインのラジオ局カデナ・セルの最新報道によると、交渉は行われているものの、Rソシエダードが完全移籍を希望する一方、Rマドリードが4季連続の期限付き移籍もしくは買い戻しオプション付きの移籍を考えているため、現時点でまとまっていない。久保自身は新チームでプレシーズンを開始することを望んでいるとのことだ。

RマドリードにとってRソシエダードは近年、MFウーデゴールを期限付き移籍に出し、MFイジャラメンディやDFオドリオソラを獲得した交流あるクラブ。最近はRマドリード、バルセロナ、アトレチコ・マドリード、セビリアの欧州チャンピオンズリーグ(CL)常連チームに次ぐ、第2グループにつけているチームである。特に下部組織出身選手が多く、FWオヤルサバル、MFミケル・メリーノ、MFスビメンディは11月開幕の22年ワールドカップ(W杯)カタール大会にスペイン代表として参加する可能性がある。

チームを率いるイマノル監督も現役時代、Rソシエダードの下部組織で育ち、トップチームに7季在籍。引退後も同クラブ一筋で過ごしてきた。Bチーム指揮官だった18-19年シーズン、ガリターノ監督が解任されたことでトップチームの暫定監督を務め9位でスペインリーグを終えた手腕が認められ、翌年、正式に監督就任した。それ以降、6位、5位、6位とコンスタントに結果を残して3季連続で欧州リーグ出場権を獲得。さらに19-20年シーズンにはチームを33年ぶり3回目の国王杯優勝に導いた。

イマノル監督は昨季、DFにスペインリーグのベストイレブンとの呼び声高い活躍を見せたル・ノルマン、MFにベテランのシルバ、ミケル・メリーノ、スビメンディといった新旧のスペイン代表、元ブラジル代表MFラフィーニャ、FWにオヤルサバル、イサク、セルロート、ヤヌザイ、ポルトゥなどを擁して戦った。システムのベースはトップ下にシルバを配置した4-2-3-1だったが、4-1-4-1、4-3-3、ダブルボランチの4-4-2などを併用した。しかしシーズン終盤はダイヤモンド型の4-4-2でプレーする機会が多かった。

プレースタイルは高い個人能力と組織力を融合させた攻撃的なポゼッションサッカー。GKレミーロを起点にパスをつないで攻撃を組み立て、サイドバックや中盤、ウイングなどが連係して数的優位を作り、スピードに優れた前線の選手たちにボールを運んでフィニッシュまで持っていくことを目標とした。昨季のスペインリーグ38試合中、ボール支配率で相手よりも劣ったのはわずか9試合のみ。守備では相手に長時間ボールを持たれることを嫌い、背後を狙われるリスクを冒してでもハイプレスを仕掛け素早くボールを奪いにいく場面が多く見られた。

第9節から5節連続で首位に立ったが、エースのオヤルサバルが代表戦で全治1カ月のけがを負ったことで決定力不足となりチームは失速。さらに序盤につまずいていたバルセロナなどが調子を上げてきたことで、最終的に38試合17勝11分け10敗40得点37失点の勝ち点62の6位で終えている。

40得点は20チーム中11番目。オヤルサバルが22試合しか出場できず9点に終わったことや、イサクが不調で6点しか決めていないことが大きく響いた。一方、37失点は4番目に素晴らしい成績であり、レミーロやル・ノルマンを中心とした堅固な守備が得点力不足をカバーした。さらにイエローカード78枚は20チーム中最も少なく、クリーンなチームであることを証明している。

イマノル監督政権5季目を迎える今季に目を向けると、ポルトゥ、ヤヌザイ、セルロート、ウィリアン・ジョゼ、ラフィーニャなどが退団し、前線が手薄になっている。一方、ここまでの補強は18歳の将来性豊かなフランス人FWモハメド=アリ・チョーをアンジェ(フランス)から5年契約で獲得したのみ。

現在、久保のほか、スペイン代表FWブライアン・ヒル(トットナム)、ウルグアイ代表MFデ・ラ・クルス(リバープレート)を獲得候補に挙げており、昨季、期限付き移籍で所属したラフィーニャやセルロートをとどまらせることを希望しているという。

久保の加入についてはクリアしなければならない問題があるが、仮にこの移籍が実現した場合、ポルトゥやヤヌザイの抜けたRソシエダードの右サイドの選手層は薄く、トップ下のシルバは36歳と高齢でローテーションが必須のため、出場機会を得る大きなチャンスになるかもしれない。しかし昨季終盤、ボランチから右サイドハーフにコンバートされた中心選手のミケル・メリーノがポジション争いのライバルになる可能性がある。

Rソシエダードは今夏のプレシーズンを7月7日から開始する。その後は16日にトゥールーズ(フランス)、23日にボルシアMG(ドイツ)、27日にオサスナ、30日にボーンマス(イングランド)、8月5日にエイバルと対戦。同14日にアウェーで行われるカディス戦で今季スペインリーグの開幕を迎える。

【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)