バルセロナが14日にエスパニョールを4-2で下し、4季ぶり通算27回目のスペインリーグ優勝を成し遂げた。

今季、財政難によるサラリーキャップ(選手の契約年数に合わせて分割された移籍金や選手年俸などの限度額)と、それに起因するガビのトップチーム登録問題、審判買収疑惑「ネグレイラ事件」、ピケのシーズン途中での引退、ブスケツの今季終了後の退団など、ピッチ内外で話題に事欠かなかった。

そんな状況の中、チームが長丁場のリーグ戦を制した要因として、スペインメディアにさまざまなことが報じられているが、特に攻守にわたる補強が的中したことが挙げられる。

優勝して喜ぶバルセロナの選手たち(AP)
優勝して喜ぶバルセロナの選手たち(AP)

■約225億円の投資で大型補強に成功

財政難のバルセロナは昨夏、今後25年間にわたる放映権の25%を売却および、選手の映像等を製作する子会社「バルサ・スタジオ」の株式49%を放出し、マイナスだったサラリーキャップ問題を解決。そして1億5000万ユーロ(約225億円)以上を投資して、新たにレバンドフスキ、ラフィーニャ、クンデ、クリステンセンなどの大型補強を実施した。

これが功を奏し、開幕からレバンドフスキを中心とした高い攻撃力と、テア・シュテーゲンを柱とした堅固な守備を武器にチーム力を高め、シーズン途中に開催されたワールドカップ(W杯)に多くの選手を輩出しながらもその影響をほとんど感じさせることなく、順調に勝ち点を積み重ねていった。

シーズン後半に入り、レバンドフスキのパフォーマンスに陰りが見え、デンベレやペドリなどが長期離脱するアクシデントもあり得点力が低下したが、「欧州5大リーグ最少失点」という鉄壁の守備はチームの大きな支えとなった。6冠目指すタイトな日程が影響してリーグ戦での取りこぼしが増えていった2位レアル・マドリードとの勝ち点差を徐々に広げていき、最終的に勝ち点14差をつけ、4節を残した状態で優勝を達成した。

■中盤に厚みを持たせた戦い方が奏功

また別の要因として、ブスケツがバルセロナでの最後のタイトル獲得後に「ベルナベウでのクラシコに1-3で敗れた後の戦術変更が僕たちに力を与えてくれた」と語ったように、シャビ監督が新たな戦い方で臨んだことが挙げられるだろう。

その手腕に多くの賛辞が送られるシャビ監督は序盤、デンベレとラフィーニャを4-3-3のウイングで併用していた。しかし昨年10月、第9節でRマドリード戦に惨敗した後、システムは変えずにインサイドハーフのガビを偽ウイングとして起用し、中盤に厚みを持たせた。この変更がターニングポイントとなり、以後の躍進につながったとのことだ。

さらにシャビ監督はガビの他、アラウホやクンデを右サイドバック、エリック・ガルシアをアンカーといったように、本来のポジションとは違う場所で起用するという試みを実践したこと、ジョルディ・アルバやピケのような重鎮を躊躇することなくベンチに座らせる決断を下したこと、ブスケツやテア・シュテーゲンを筆頭とするベテランとガビ、バルデ、ペドリといった若いタレントをうまく融合したこと、不満が出てもおかしくないケシエ、エリック・ガルシア、フェラン・トーレス、セルジ・ロベルトといった出番の少ない選手たちをうまくコントロールしたことなどが高く評価されていた。

優勝して喜ぶバルセロナの選手たち(AP)
優勝して喜ぶバルセロナの選手たち(AP)

■メッシを中心とした個から組織力へ

マルカ紙はバルセロナの今季の状況を受け、「レバンドフスキ、ブスケツ、クンデ、デンベレ、ペドリといったスター選手がそろいながらも個人は存在せず、皆がバルサのために戦った」と分析し、メッシという個が中心だったかつてのチームと真逆のスタイルであることを強調した。

さらに同紙は、チームに勝利をもたらす数々の奇跡的なセーブを披露したテア・シュテーゲン、堅固なDF陣の中心であるアラウホ、チームのクリエーティブな役割を担い、バルセロナのサッカーに魔法をかけたペドリ、攻撃をリードしたレバンドフスキを「4人の王」と称した。

シーズンを通じたバルセロナの選手たちに対するスペイン各紙の評価に目を向けると、スポルト紙はテア・シュテーゲンとアラウホをチームトップの9点(最高10点)、アス紙はテア・シュテーゲン、アラウホ、クリステンセン、バルデ、ブスケツ、ペドリ、ガビ、デ・ヨング、レバンドフスキ、ラフィーニャの10人を最高点(最高3点)とした。加えてピケに対しては、今季ではなくこれまでのバルセロナでのキャリアに敬意を払い同様に最高点をつけていた。

バルセロナのロナルド・アラウホ(AP)
バルセロナのロナルド・アラウホ(AP)
ゴールを狙うバルセロナのロベルト・レヴァンドフスキ(AP)
ゴールを狙うバルセロナのロベルト・レヴァンドフスキ(AP)
2点目のゴールを喜ぶアラウホら、バルセロナの選手たち(AP)
2点目のゴールを喜ぶアラウホら、バルセロナの選手たち(AP)

■欧州CL失敗の「ジキルとハイド」

とはいえ、今季のバルセロナが全て素晴らしかったわけではないようだ。スペインメディアは成功を収めた国内リーグと、大量失点を喫して失敗に終わった欧州チャンピオンズリーグと欧州リーグのパフォーマンスを比較し、「ジキルとハイド」と揶揄(やゆ)して2面性があったことを指摘した。

またスペクタクルなプレーが失われ、アトレティコの代名詞である「ウノ・セロ(1-0)」の勝利が多く、バルセロナらしくない堅実なサッカーをしていたことで度々批判を受けていた。実際ここまでのリーグ戦27勝中、11試合が1-0での勝利だった。

すでに優勝を成し遂げたバルセロナだが、まだ戦うためのモチベーションは残されている。次なる目標はスペインリーグの最少失点記録を更新すること。現在の記録はデポルティボ・ラ・コルーニャが93-94年シーズン、アトレチコ・マドリードが15-16年シーズンに達成した18失点。バルセロナはここまでわずか13失点のため、残り4節を4失点以下で抑えた場合、偉大な記録を樹立することになる。

一方、個人では、テア・シュテーゲンのサモラ賞(スペインリーグの最少失点率GK賞)獲得はほぼ間違いない。レバンドフスキは21ゴールを決め、ピチチ賞(スペインリーグの得点王)争いで2位ベンゼマ(Rマドリード)に4点差をつけトップに立っている。

リーグが閉幕する来月4日まであとわずか約3週間だが、今後もチームや個人としての戦いは続いていく。

【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)

優勝パレードで盛り上がるバルセロナの選手たち(AP)
優勝パレードで盛り上がるバルセロナの選手たち(AP)
優勝パレードで盛り上がるバルセロナの選手たち(AP)
優勝パレードで盛り上がるバルセロナの選手たち(AP)
優勝して喜ぶバルセロナの選手たち(AP)
優勝して喜ぶバルセロナの選手たち(AP)