長谷部誠と鎌田大地のフランクフルトは、先週末に行われたドイツ杯決勝でBミュンヘンを下し、30年ぶりのタイトルを獲得した。しかし、このクラブ史に残る優勝劇を見逃した不運な男がいる。それは、同クラブの本拠コメルツバンク・アレーナで20年以上スタジアム・アナウンサーを務めているアンドレ・ローテ氏だ。

 1997年7月25日のフォルトゥナ・デュッセルドルフ戦から今日までこの職務を負っているローテ氏も、本来であればベルリンにいるはずだった。なぜなら決勝が行われるオリンピア・シュタディオンは、いわば“中立地”。両軍の選手紹介は、おのおののスタジアム・アナウンサーが行うことになっているからだ。

 しかし大衆紙「ビルト」によると、同氏は昨年夏、今季ブンデスリーガ終了後に訪れるバケーション先をグリーンランドに決定していた。その期間を「ドイツ杯終了後」ではなく「リーグ戦終了後」としたことについて、彼はこう話している。

 「(2016-17シーズンに続き)フランクフルトが(今シーズンも)再びファイナルに行く可能性はゼロだと思っていた。だから何も考えずに予約してしまったんだ。ただ、帰りの便は直感的に『(ドイツ杯決勝前日の)金曜の昼間にフランクフルトに戻ろう』と決めた。そうすれば(万が一の時には)その日の晩に(フランクフルトから)ベルリンへ飛ぶことができるからね」

 そんなローテ氏を襲ったのは、グリーンランドに突如吹き荒れた強風。決勝2日前の木曜に滞在地イルリサットをプロペラ機でたち、約200km離れたカンゲルルススアークに向かう予定だったものの、この悪天候により出発が遅れ、コペンハーゲン行き飛行機の乗り継ぎに数分の差で間に合わなかった。

 翌日金曜にもカンゲルルススアークからコペンハーゲンへ飛ぶ便は存在し、ローテ氏はそこからベルリンへ直行するプランも検討したようだが、どんなに急いでもベルリン到着は15時40分。決勝当日のスタジアム・アナウンサーを務めるためには、16時に始まる最終ミーティングの出席が義務付けられていたが、ランディングからたった20分でミーティングに間に合う可能性は極めて低く、あえなく現場行きを断念したという。

 「試合開始前、私は『フランクフルトが勝つ』と(一緒にTV観戦をしていた)友人に言っていたんだ。なぜなら(決勝に進出した)2006年と2017年、私はスタジアムにいて、どちらも敗れた。でも今回、私はそこにいなかった。しかもレビッチが2ゴール決めることも予想してたんだよ。優勝という結果になって本当に素晴らしい。ただ、試合終了後にお風呂で(悔しさから)涙を流したけどね」