もう0台は当たり前という次元に突入した。陸上男子100メートルで9秒98の日本記録を持つ桐生祥秀(23=日本生命)が予選で10秒04(追い風1・3メートル)、決勝で10秒05(同0・1メートル)をマークし、優勝した。

狙っていた自己記録の更新こそならなかったが、10秒01だったセイコーゴールデングランプリ大阪に続き、これで10秒0台を3連発。1日に10秒05以内を2度記録するのは、日本勢初だった。価値ある数字を残し、次戦の日本選手権(福岡・博多の森陸上競技場)に弾みを付けた。

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好記録を連ねたことが成長の証明と価値だった。桐生は予選で10秒04、約2時間半後の決勝は10秒05だ。同じ日に公認記録の10秒05以内を連発した日本人は過去にいない。日本記録更新狙いだった桐生は「タイムとしては満足できていない」と悔やんだが、もう、はまれば速い桐生ではない。欠けていた安定感がある。

心持ちも変化があった。レース前に「9秒台は絶対出る」と自分に言い聞かせていた。以前は無駄な力みを生まないよう、記録は意識しないのが心得。「日本人初の9秒台」の期待を背負い続けていた時期に、口では「9秒台」の抱負を述べても、本音は違うことが多かった。この日は、意図的に記録を意識し、自分を鼓舞した。成長を重ね、自信がないとできない業だ。

余裕があるから、実戦の中で新たな模索を続ける。この日は「1本目に9秒台を出し、2本目は棄権しよう」というプランだった。2度目の大台突破を逃し、意地で走った決勝は「力ずくでいったらどうなるか」とあえて“悪走”を試した。悪い動きを知ることは、それを制御する材料にもなる。「(動きの)硬さも一段落とせる」。5年ぶり2度目のVなら今秋の世界選手権(ドーハ)代表に内定する日本選手権へのイメージを高めた。【上田悠太】