大阪国際女子マラソンで2時間21分47秒の日本歴代6位の好記録をたたき出した松田瑞生(24=ダイハツ)。その足元を支えたのは「匠(たくみ)の技」だった。

この日も松田がはいていたのは三村仁司氏(71)が手がけたニューバランス製の「非厚底」シューズ。レースの3日前に調整を求められた靴づくりの名人は、短期間で最高のものを新たにつくり、活躍をサポートした。

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レース当日、朝の練習を終えた松田に、三村さんは新シューズの履き心地を尋ねた。「悪くないです」「そうか。それなら今日はそれで行け」

松田が長らく愛用するシューズはオーダーメードの一品ものだ。それをつくる三村さんは、オリンピック(五輪)金メダリストの高橋尚子、野口みずきらも担当した名工。松田とは大阪薫英女学院高時代からのつきあいになる。

長くて厚い信頼関係があるからこそ、選手はわがままにもなれる。レースの3日前、松田はシューズをはいた感覚がわずかに「きつい」と口にした。レース直前での修正要求は「珍しいこと」(三村さん)だが、「それならそれで対応しないと」。中敷きのソールを新たにつくったうえで、少しゆったりしたサイズに調整し、レース前日に間に合わせた。

厚底タイプのナイキの市販製シューズが話題を集めているが、三村さんは「彼女は外反母趾(ぼし)なので、既製品は無理」という。さらに松田は右足のほうが2・5ミリほど大きく、左右の大きさが異なるものをあつらえる。

レース前には、いつものように松田の足首にテーピングを施した。「足が柔らかく感じたので、真っすぐ地面を蹴られるように、初めて2枚ずつ巻いた」。微妙な変化を察知し、最適なサポートを施した。

優勝して笑顔で引き上げてきた松田に、三村さんは「瑞生、写真撮ろうや」と声を掛けた。すると「そんなんいつでも撮れるやん」とまさかの拒否。2人がツーショットで収まるのは、東京五輪の発着地である札幌大通公園になるかもしれない。【奥岡幹浩】