12月6日の福岡国際マラソンを左足首骨折のため欠場する瀬古利彦(31=エスビー食品)に、ソウル五輪出場のチャンスが与えられることが27日、陸連緊急強化委員会で正式に確認された。陸連強化委員会は「代表選考は福岡一本」としていた方針を撤回。瀬古が福岡に出場せずとも、来年2月14日の東京国際、3月13日のびわ湖と、陸連理事会が指定した選考レースのどちらかを走れば、五輪出場の道が開かれることになった。27日、瀬古は休養し、骨折もほぼ順調に回復。ラストチャンスにかける東京国際に向け27日、同大会に出場を表明しているキャステラ(30=オーストラリア)からメッセージが届いた。

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27日午後6時半から行われた陸連強化委員会には、小掛照二強化委員長、大串副委員長、沢木長距離担当部長らが出席し、ソウル五輪マラソン代表の選考基準についての話し合いがなされた。21日の理事会の時点では、同委員会を小掛氏が代表し「福岡が事実上の決定戦となるのは現場の意向をくんだもの。福岡が終了した直後の緊急強化委員会で、すっきりと早く代表3人を決定させてほしい」との同委員会の統一見解を、理事会に提案した。

しかし、瀬古のアクシデントによりこの案は撤回。27日は理事会が「共催マラソンへの配慮」としていた「代表選考は福岡、東京、びわ湖の3レース。代表正式発表は3月」との方針に沿うことになった。これにより瀬古は「福岡に出場できなければそれも実力のうち」(強化委員会)とされていた福岡を欠場しても、ほかの選手と同様にソウルへの道を与えられたことになる。

24日に「左ひ骨下端はく離骨折」で福岡欠場を発表して以来、瀬古の足首は順調な回復を見せている。小林尚寿氏(小林針灸院)は「無理さえしなければ大丈夫だ。針は最後の手段で効き目を確認する必要がある。当分は針は打たなくていい」と忠告し、瀬古の気持ちにブレーキをかけている。26日は、午後2時から神宮外苑をゆっくりウオーキングし、わずかずつでも東京国際に向けて始動している。

27日、陸連の確認を聞いた瀬古は「チャンスを与えていただき感謝している」と話した。「他選手たちの現場も、代表決定に関しては陸連に一任するとの方針で固まった」と、小掛氏は27日説明したが、実際は瀬古救済法について各監督、コーチは不満を表している。瀬古もその気持ちを思って「自分の不注意でこういうことになり、同じ土俵で戦おうと福岡一本に絞ってソウル五輪を狙ってきたほかの皆さんには、申し訳ない気持ちでいっぱいです」と頭を下げた。

12月6日のレース終了後、タイム、レース展開、選手の実績を検討した上で、代表決定の第一案が出される。上位3人全員が7分台と予想以上の好成績でない限り、3人がここで決まることはない。「同じ土俵」を降りた瀬古には、キャステラ(豪州)、イカンガー(タンザニア)、ワキウリ(エスビー)、サラ(ジブチ)ら世界の強豪を相手に、2月14日の東京国際で全員を納得させる走りをすることだけが、ソウルへ出場する唯一の方法となる。

 

◆瀬古救済にライバル厳しい目

瀬古救済の正式決定に、ライバルたちは厳しかった。旭化成軍団を率いる宗猛(34)は「素直に納得はできません。瀬古君の実績が高く評価されたんだと思いますが、それは私も同じように評価します。ただ、瀬古君は来年2月の東京で、福岡の3位の選手より良いタイムで優勝しなければ、ほかの選手は納得しないでしょうね」と、条件をつきつけた形だ。日本歴代最高の2時間7分35秒を持つ児玉泰介(29=旭化成)はもっと手厳しく、「僕らがねん挫や骨折したら、管理がなってないとか、運がないねといわれて終わりでしょう。僕が同じ立場だったら、直前まで治療に専念し、ダメだったら、あきらめます。瀬古さんもそうしてほしかったという気持ちが一部、ありますね」。正論とはいえ、こうした声が倍以上のプレッシャーとなって瀬古にのしかかる。どうはね返すか。東京国際マラソンが、瀬古にとって生涯最も厳しい試練となるのは間違いない。

 

◆中山が所属するダイエー・佐藤進監督の話 

中山だってずっと福岡に目標を絞り、故障を避けるため練習のレベルを落としてきたほどです。釈然とはしませんね。瀬古君には(1)東京で優勝(2)日本最高を破るぐらいの条件をつけてほしい。

 

◆瀬古負傷に世界の強豪エール

「瀬古がケガ!!」のニュースはすでに世界各国の関係者に届き、大きなセンセーションを呼んでいるが、豪州の強豪ロバート・ド・キャステラ(30)は27日、契約先のデサントを通して、「一日も早い回復を祈る」と熱いメッセージをテレックスで打電してきた。キャステラは現在でも世界ランク4位(2時間7分51秒)。ロス五輪までは世界最強と目されていたが、ライバルの瀬古には1980年(昭55)の福岡国際で59秒差で敗れるなど(2戦2敗)、一度も勝っていない。ロス五輪ではともに調整に失敗(5位、瀬古14位)したが、タイム順の世界ランクでは2時間8分27秒で現在10位の瀬古の実力を、体験を通じて最も高く評価している。電文には「瀬古こそ、世界の“ベスト・マラソナー”であると私は見ている。東京国際マラソン(来年2月14日)での対決の興奮を、心から楽しみにしている。世界的に名声を博した“瀬古走法”が完全に復活できるよう、ケガの全快を心から祈っている」とあり、長い間ライバルとして対決してきた者同士の心配と激励が、行間から熱くにじみ出ている。メッセージはきょう28日、瀬古本人に届けられる。