東京五輪1万メートル7位入賞の広中璃梨佳(21=日本郵政グループ)が、世界選手権(7月、米オレゴン州)の切符を手にした。今季初戦で31分30秒34をマークして優勝。参加標準記録を突破済みの今季初戦、万全ではない状態の中で貫禄を示した。初めての世界選手権で東京五輪からの成長ぶりを発揮する。3位の五島莉乃(資生堂)も世界選手権の代表に内定した。2位は萩谷楓(エディオン)だったが、参加標準記録を破ることはできなかった。

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広中の“ギアチェンジ”に国立競技場がどよめいた。7600メートルでトレードマークの帽子を取ると、先頭集団から一気に抜け出す。「ここから確実に決めたいと切り替えるような感じだった」。9カ月ぶりの国立。東京五輪とは違う有観客の声援は「背中を押してくれた」と笑みを咲かせた。

序盤から先頭で引っ張る五島を、背後からピタリとつけた。7000メートル過ぎの給水で前に出る。「確実に(世界選手権の代表に内定する)3位以内を取りたい。余裕を残して、後半につなげたいと思っていた」。持ち前の力強い腕振りが推進力を生む。萩谷とのマッチレースとなったラスト1周も、グングン引き離した。

東京五輪では自己ベストの31分0秒71をマークして、同種目25年ぶりの入賞を果たした。周囲からの視線も変わってきた今季。「プレッシャーや気負いは持っていない。(24年)パリ五輪に向けてのステップだと思っている」。

1カ月前までは、レースに出場できるか分からない状況だった。4月上旬に貧血を発症。本格的な練習を再開したのは、今大会の2週間前だった。「体調が悪い中でもできることを1日1日やるしかなかった。鉄分があるものを食べたり、その中で管理栄養士と話して改善に努めた」。4月29日の織田記念(広島)も欠場。「棄権する悔しさもあったけど、世界(選手権)を優先したかった」。

急ピッチの調整。昨年末の実業団対抗駅伝では左膝に痛みも生じ、冬季練習も負荷を掛けた練習ができなかったという。「周りの方々に支えられながらやりきれた」。6月の日本選手権(大阪)では、5000メートルでも世界選手権の代表を狙っていく。「し烈な争いになるけど、通過点と思って」。21歳の成長物語は続く。【佐藤礼征】

◆広中璃梨佳(ひろなか・りりか)2000年(平12)11月24日、長崎市生まれ。桜が原中で本格的に陸上を開始。16年から都道府県対抗女子駅伝で5年連続区間賞。長崎商高時代の18年にはアジアジュニア選手権1500メートルで優勝。日本郵政グループに進み、東京五輪では5000メートルで9位、1万メートルで7位となり、日本勢25年ぶりとなる入賞を果たした。座右の銘は不撓(ふとう)不屈。163センチ。

○…五島が攻めの走りで内定を勝ち取った。7000メートル過ぎまで先頭で引っ張り、広中と萩谷のスパートに離されたが3位を死守。「自分らしさを生かしたレースだった」。石川・星稜高、中大を経て社会人3年目。ユニバーシアードでの代表経験はあるが、シニアでは初となる。「今日迎えるまでに不安と緊張はあった。今まで大きな経験はしたことなかったが周りの期待に応えたかった」と、声を震わせながら喜んだ。