陸上世界選手権の注目選手を紹介する連載の最終回は、男子20キロ競歩で連覇を目指す山西利和(26=愛知製鋼)。金メダルが期待された昨夏の東京五輪では銅メダルに終わり、メンタルトレーニングの有識者である原田隆史氏(61)に師事。MLBエンゼルス大谷翔平も実践した「オープンウインドウ64」の完成度は「過去見てきたアスリートで一番」と原田氏も驚くほどだ。大会初日(日本時間16日午前7時10分スタート)に登場。日本勢にいきなりメダルをもたらすか。

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山西が「メンタル」を改善して国際大会に戻ってきた。6月下旬に北海道で行われた代表合宿。「東京五輪を経て一番思ったのは、これまで持っていたものでは勝てなかったということ。メンタリティーの部分で少してこ入れした」。出向いた先は、メンタルトレーニングの有識者として知られる「原田教育研究所」代表の原田氏。山西の堀川高時代の恩師である船越康平さんが、約20年前に原田氏の私塾に受講した経緯があり紹介を受けた。

「原田教育-」は大谷のメンタルトレーニングを手助けしたことでも知られる。有名なのが、目標達成ツール「オープンウインドウ64」。64個のマス目が並ぶ1枚のシート。その中心に目標を記し、それを達成するための要素や行動、施策を周囲のマス目に詳細に書き出していくというもの。自らの考えを言語化することで、競技人生の“指針”を定めた。

山西が作成したものの出来栄えについて原田氏は「完成度は今まで見てきたアスリートの中で一番。京大(出身)やもん。言語化する能力が違う」。本格受講から1カ月後の世界競歩チーム選手権3月で優勝。山西は「1つ1つの行動を具体化することが差になった」と効果を実感した。

競技外では、世界陸連(WA)のアスリート委員会委員選挙に立候補した。「ああいう場に日本人が出ていくのも少ない。チャレンジしたことが残れば次につながる」と謙遜するが、練習以外でも英会話に本腰。原田氏は「スポーツの奥深さを世界中に伝えたいとはっきり決めている。日本陸上界の歴史に残る選手になるだろう。我々も今後サポートし続けたい」。有識者も絶賛する人間性。取り組んだ成果を、オレゴン世界選手権で発揮する。【佐藤礼征】(おわり)

◆山西利和(やまにし・としかず)1996年(平8)2月15日、京都府長岡市生まれ。堀川高1年時に競歩を始める。3年夏に世界ユース選手権1万メートルを優勝。京大工学部に現役合格し、卒業論文のテーマは「部分空間同定法を用いた信号の周波数推定」。19年世界選手権ドーハ大会の20キロ競歩を1時間26分34秒で初出場。昨夏の東京五輪は金メダル最有力候補と目されながら、終盤で失速して銅メダル。164センチ、52キロ。