昨年の東京五輪で一躍、新時代の到来を告げた。ラモントマルチェル・ヤコブスは9秒80の欧州新記録でイタリアに初の金メダルをもたらした。186センチ、84キロという巨体に似合わぬ鋭さで飛び出すと、中盤一気に加速。最後は分厚い胸板を大きく突き出し、名立たるライバルとのたたき合いを制す。

米国生まれで幼少期に母の母国イタリアに移住した。18年欧州選手権11位、19年世界選手権は準決勝で落選と壁にぶつかってきたが、自らの可能性を信じ疑わなかった。ハングリー精神こそがブレークした原動力だった。

趣味はF1観戦で、憧れのスポーツ選手は「F1史上初の黒人ドライバー」として歴史を刻むルイス・ハミルトン(英国)だ。ひげ面と上半身のタトゥーが目立つ個性的なスプリンターで、愛称は「クレージー」。長くけん引したボルトが去った短距離界にあって、異色の個性派が存在感を発揮している。

ラモントマルチェル・ヤコブス