11月3日に東京都が主催する「NO LIMITS CHALLENGE」に参加してきた。「NO LIMITS」はパラリンピック競技やパラリンピック関連情報、競技体験イベントなど、パラリンピックの魅力をより多くの方に知ってもらう事を目的とした活動をさす。今回行われた「NO LIMITS CHALLENGE」は「NO LIMITS」に紐づいた、パラリンピックの体感を目的としている。

 イベントを一緒に盛り上げてくれたのは、パラ水泳界でエースで、昨年のリオデジャネイロ・パラリンピックで視覚障害S11(自由形、背泳ぎ、バタフライ)SB11(平泳ぎ)SM11(個人メドレー)のクラスで3つのメダルを獲得した木村敬一選手と、運動機能障害S9区分50メートル自由形で銅メダルを獲得した山田拓朗選手だった。

ジャパンパラ水泳で泳ぐ木村敬一(2017年9月3日)
ジャパンパラ水泳で泳ぐ木村敬一(2017年9月3日)
水泳ジャパンパラで飛び込む山田拓朗(2017年9月3日)
水泳ジャパンパラで飛び込む山田拓朗(2017年9月3日)

 山田選手に話を聞くと、パラリンピック競技の魅力は「道具を使用し、人間と道具が一体になること」。しかし、競泳の場合、唯一道具を使用しないパラ競技であることは有名だ。オリンピック競技の競泳と同様、身体1つで勝負する競技。

 つまり、自分の感覚が全てだ。

 私は、このイベントの中で木村敬一選手と同じ条件で自由形を泳ぐ体験をさせてもらった。木村選手は、11というクラスだが11というのは視覚障害を表す。何も見えない状態で泳ぐのだ。

 山田選手が「木村選手は、生まれてから一度も自由形の方の形を目で見ていない。自分の感覚だけで作り上げた自由形を泳いでいる」こう紹介した。私は小さい頃、人が泳ぐ自由形を見て習得しただろう。木村選手は私たちと同じ自由形を泳いでいるので全く違和感もない。山田選手のこのコメントで、気づかされた。知らないことは多く存在する。

 いざ、体験してみる。真っ黒のゴーグル。「よーいスタート!」このかけ声でなかなかスタート出来なかった。たった25メートルなのに、怖くて呼吸をしているのに息が吸えなかった。

 他に参加した子どもたちも頑張って泳ぎ切ったが、「怖いー!」と叫んでいたりした。それを見た木村選手は、笑っていた。

 この体験するということがいかに大切か。あらためて実感する。今までも、たくさんのパラスポーツを体験させてもらったが、ブラインドで泳ぐのは元競泳選手として初めてだったので、「もっと早く体験しておけばもっと理解できる」と少し後悔をした。

 2012年ロンドンオリンピックの時、その大会が終了後にパラリンピックをPRする「Super Human」「Thank you for warming up!」の文字が躍った。

 障がいの区分は細かく、複雑だ。でも、それもとても魅力の1つ。

 山田選手はとても素晴らしい話をしてくれた。「誰1人、同じ身体の使い方をしていないんです」そもそも、オリンピックとパラリンピックの役割が違うという。とても興味深い。真の「パラの魅力」はどのようなところにあるのだろうか。

 「オリンピックと同じにしようとするから、パラリンピックがオリンピックのあとにやる試合みたいな認識になる」「パラリンピックの魅力は違うところにあります」それは一体どういうことなのか。

 「僕たちは、障がいを持っています。だから、どちらかというと卓越しているわけではない。つまり、よりアスリートですが、一般の人とも遠く離れた存在ではない」

 「これだけ障がいを持っていても頑張れるというところを見せたい」

 「速さをみるのではなく、その動きや、心を伝えていきたい」

 パラの魅力は、とても奥深い。選手と話すといつも感じるのだ。

 これからの日本の課題として「スポーツを文化にする」この言葉には、多くの意味を持っているし、選手を知り競技を知る。この第1歩が大切だと改めて感じる時間だった。

 「スポーツを楽しむ」このことが伝えるのがパラスポーツだと山田選手が話すように、パラリンピックが成す役割を期待せずにはいられない。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)