先日、一般社団法人MANが主催のセミナー「産前産後トレーニング」と「人生設計プログラム」に参加させていただいた。

一般社団法人MANは、子を持つアスリートが「アスリートであり、親である」自身の経験を生かし、子を持つアスリート、これから子を持つことを希望するアスリート、ジュニアアスリート、そして子を持つ監督・コーチ・トレーナーなどの競技関係者を支えることを目的として、情報発信やネットワーク構築を行うために設立された団体だ。(HP引用)

4大会オリンピックに出場されているバレーボール日本代表で理事の荒木絵里香さんに紹介いただき、このセミナーに参加させていただいたが、学びが多く、有意義な時間を過ごさせていただいた。

女性は結婚、出産などのライフステージの変化によって悩みにぶち当たる時があるはずだ。これはアスリートでも働く女性でも同じだと思う。

一昔前まで、日本のアスリートは出産後競技復帰する方は珍しかった。しかし、現在は荒木さんはじめ、各競技でママアスリートが増えてきた。トライアスロンでいえば、海外のオリンピアン、メダリストたちの出産ラッシュがあり、既にもう復帰をし、世界大会で活躍をしている。

現役アスリートの中でも結婚、出産のタイミングを悩んでいる方もいると思うので、こういう方の経験はとても貴重だと感じ、セミナーに参加した。

セミナーでは2部構成で行われ、第1部では平井晴子さんから「産前産後トレーニング」と題して、妊娠期・産後期のトレーニングや、妊娠期・産後期の過ごし方や注意点などをお伝えしていただいた。大変興味深い内容だったので参加したかったのだが都合がつかず残念ながら不参加となった。参加した友人からは大変ためになったと連絡が入った。

アスリートのみならず、出産によってホルモンバランス、体形は一気に変わる。私も経験した身として、こんなにも変わるのか!という程、以前の自分とのギャップにショックを受けたり情緒不安定にもなる。

そういう変化に戸惑いながら妊娠・出産を迎え、産後もどうしたら良いかわからない方も多くいると思うので専門家の方にエクササイズを聞けるのは貴重なことだ。

第2部では「人生設計プログラム」と題して、5大会オリンピックに出場されているクレー射撃の中山由起枝さんと荒木さんのトークセッションを交えたプログラムだった。

MAN独自の人生設計シートの使い方や、それに沿って未来を考える機会だったが、それをやってみた時に、『そういえば最近目標がなかったり、具体的にこの時こうしてたいという思想がなかったな』と気付かされた。

これを機に、自分や家族の将来図を描いてみようと思う。

中山さんは現在44歳で22歳の娘さんがいる。競技のみならず、人生において出産、脳の手術などさまざまな経験をされており、お話しを聞いていると引き寄せられるものがあった。中でも印象深かったことは、『出産後に競技復帰する気はなかったけれど、クレー射撃が一番私に合っていると思い、食べていけると思ったから』という言葉だ。この考えは、世界の第一線で活躍されている海外のママトライアスロン選手も話していたが、スポーツをしっかりとした職業としており、元アスリートの私からしたらとてもかっこいい選択だと思う。ただただ好きなことをしているのではなく、娘さんを養う覚悟も必要だ。アスリートとしても、母としても、女性としてもすてきだと感じた。

荒木さんは10歳の娘さんがいる。20代前半にイタリアでプレーしている時にママアスリートが身近に多くいたことから荒木さん自身の視野と選択肢が広がり、29歳で出産をした。私自身、荒木さんとは家族ぐるみで交流があったのでその頃の活躍は鮮明に覚えている。しかも日本チームのキャプテンも務められておりこのタイミングは勇気と覚悟がいっただろうなと想像していた。

荒木さんの言葉の中でも、『チームスポーツは必要とされる人でなければならない』とおっしゃっていたように、コート内外での荒木さんの存在は日本にとって欠かせないものだったと感じる。1度離脱した時の勇気と覚悟は並大抵のものではなかったはずだが、荒木さんは周囲のサポートとご本人の努力で復活を成し遂げたのだ。

2人には参加者からは、『子供は寂しくなったか』という質問や、『後悔したことはあるか』などの質問も飛び交った。

中山さんは以前お子さんに尋ねたところ、答えは、『覚えていない。(笑い)』と言っていたそうだ。

『こっちが悩んだり、後ろ髪引かれる思いで遠征など行っても、意外と子供は平気だったりして』と話していた。

もちろん運動会や参観日などの行事に参加できない寂しさや、遠征で会えない寂しさもあるとは思うが、私が子供の立場だったら、2人とも自慢のお母さんだろうなと思う。

私からは、『産後、産前より強くなった実感はあるか』と質問をさせていただいた。答えは2人とも『Yes.』だった。現に、産後にオリンピックに出場されるくらいパフォーマンスが高く活躍をされているのでやはり『母は強いな』と感じた。

荒木さんは高校生の頃からプレーする姿を見ていたので、母になってからよりパワーアップした姿に感動していた。以前から荒木さんはコート内外でも声を出して常に前向きな姿が大好きでファンであったが、産後はさらに存在感と周囲を明るく照らすオーラを放っていた。

2人の話を聞いて、出産後にアスリートを続けるには周囲の理解と協力は必須となる。アスリート自身も、強い覚悟が必要だと感じた。

『この周囲への感謝と覚悟が良い相乗効果をもたらし、子供がいることが何より力になり、練習の効率があがった』

『産前より練習に集中できるようになったし、子育てが一番うまくいかないので忍耐力もついたかな』と話していた。

こうした経験者の方に相談をしたり、同じ悩みを共有したりできる場があるだけでも、人生の選択肢が広がり、より豊かな人生を送れるとセミナーを通して感じた。

人生は1度きり。出産してもアスリートを望むのならば、『出産』をあきらめにはしてほしくない。

『出産後にもアスリートでいる選択肢』、『女性のライフステージの変化をサポートする仕組み』など、MANの取り組みのさらなる発展が楽しみだ。

(加藤友里恵=リオデジャネイロ五輪トライアスロン日本代表)