こんにちは、ラクロスプレーヤーの山田幸代です。
今回から、海外から来日し、日本のチームに参戦している選手に焦点を当ててお伝えしていきたいと思う。
第1弾としてバスケットボール「Bリーグ」の千葉ジェッツふなばしで活躍する日本代表候補、ギャビン・エドワーズ(GAVIN EDWARDS=32)選手を取材した。
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身長206センチのビッグマン。第一印象は「物静かで穏やかそう」だった。それが、いったんバスケットボールの話を始めると、どんどん真剣なまなざしに変わっていった。そして、英語がファーストランゲージでない私にも分かりやすく丁寧に説明をしてくれたのがとても印象的だった。
子供たちのスポーツ文化の違いから話し始めた。
ギャビン選手は、元NFL選手の父を持つ、アメリカ・アリゾナ州生まれの32歳。小さな時からサッカーや野球、アメリカンフットボールやゴルフなど、たくさんのスポーツを経験し、その中でバスケットボールにのめり込んでいった。
海外では、何か1つのスポーツをするというよりも、子供の時から複数のスポーツを同時に行うことが当たり前だ。
私もオーストラリアで夏と冬、別々のスポーツで活躍する選手たちをたくさん知っている。日本の学校では1つのことを部活として1年中やり続けることが普通だが、世界の「普通」は違っている。
ギャビン選手の来日は7年前。その前に多くの国でのプレー経験がある。そんな中、日本のリーグでのオファーを聞いた。「自分のキャリア向上のため挑んでみたい」と決断した。プレー以外の何かを期待して来日したわけではないが、なぜかワクワク楽しみに日本に来たことを覚えているという。
日本のプレースタイルはどこか世界とは少し違うと感じていたし、そのスタイルの中で自分がどれだけできるのか楽しみだった、と。
--来日して、まず初めに、ぶち当たった壁などありますか?
ギャビン 食事などは日本に来る前にアジアの国々も住み、プレーもしていたし、アメリカと同じようなものを求めても難しいことはわかっていた。それに、他国での経験からその現地の環境に慣れることが大切だと理解していたし、日本に来てもあまり難しさを感じなかった。
日本の家の小ささには苦労したというが、異国での対応にそれほど時間がかからなかったようだ。そうは言っても、簡単なことではないだろう。
ギャビン でも、大きな壁だと感じたのはやはり、言葉の壁かな。
そうそう。そうに違いないと思っていた。彼は、日本でプレーするときに日本の文化を受け入れ順応していくこと、そして人々とのコミュニケーションをとることの2つを大切にしていると言っていた。
そうなのであれば、言葉の壁は大きな弊害になっているのではないかと感じた私は、すかさず聞いてみた。
--言葉が伝わらない人たちに、自分の思いなど伝えるために会話をすることって大変じゃなかった?
なぜなら、私もオーストラリアで挑戦し、戦う中で一番悔しい思いをしたこと、それが「ランゲージバリアー」だからだ。
でも、彼はこう答えた。
ギャビン 普段の会話などでランゲージバリアーが大きな壁だと感じたけれど、でもそれは一緒にプレーしていく中ではさほど大きな障害だとは思わなかった。プレー中は、英語が伝わらないからと困ったことはあまりない。みんなバスケットボール用語は英語で理解できるし、それで十分なことも多い。自分も日本語を勉強しているし、簡単な言葉なら日本語で交わすこともできる。互いが理解しようとし合えば問題は解決した。
私が思っていた答えと真逆だった。
絶対大変だったし苦労して、フラストレーションもたまっただろうと想像していたからだ。
私が言葉が大きな壁と感じていた理由を考えてみる。きっと自分が「英語を間違えたら恥ずかしい」「英語ができないから話さないほうがいい」など、消極的になって2年間を過ごしていたからだ。ただ自分が臆病だっただけなのに。
ギャビン選手は自ら積極的に会話をしていくことで、ランゲージバリアーを感じさせなくしたのだろう。
そこが海外選手の強さなのかもしれない。
日本人なら萎縮する場面で、海外の選手は萎縮しない。そもそも「萎縮する」という言葉をあまり英語で聞いたことがない。
それぞれが、自らのプレーに自信をもっているからこそ、積極的なコミュニケーションをとれるのだろう。
アメリカと日本の違いを聞いてみた。
--何が一番大きく違うと思う?
ギャビン 身体の性質が違うことと、マインドセットだろう。
アメリカではプレー中に相手を倒して「ごめんね」という選手はいない。戦いの中でのマインドセット(考え方)は勝利への強い覚悟なのだろうと感じた。
彼は今、日本代表になるため帰化した選手だ。今年1月に日本国籍を取得した。
とても大きな決断だったのだと思う。私も自分が日本代表からオーストラリア代表に移籍を決意したとき、さまざまな思いが頭の中をめぐったものだ。
ただ、ラクロスの場合、国籍を変える必要はなく、移住者という扱いで戦う国を変えられる。帰化することは私以上の決断をしなければいけなかったと思う。
だが彼はその決断が、その先の自分の目標や夢につながっているという。
ギャビン まずは千葉ジェッツふなばしで日本一になることが目標で、その先に日本代表選手としてプレーできるなら、自分にできることをすべて全力でやりたい。そして日本代表チームを引っ張る存在になりたい。
目を輝かせて話してくれた。
八村選手や渡辺選手といったアメリカで活躍する選手たちとの共演も心待ちのようだ。同じマインドセットで戦える仲間たちが日本代表チームにはたくさんいる。彼が世界大会やオリンピックなど日本代表選手として大活躍してくれることを大いに期待している。
--これから日本から海外へチャレンジしたいと思っている人たちにメッセージを
ギャビン 一生懸命練習しよう! 君の努力は必ずチームのために働き、それが自らの自信となって自分のすばらしさを知ることができるだろう。そして、その自信が夢へとつながっていき、海外挑戦の準備を怠らなければ君の挑戦はかけがえのない財産になるよ。
これから、挑戦しようと思っているたくさんの人たちに、この言葉を送りたい。努力をするのは自分に自信をつけるため。そして、自らを信じることができるようになるのだと。
最後に彼に聞いた。
--なぜ、バスケットボールをするの?
ギャビン それは、ただバスケットボールが好きで、バスケットボールこそ僕のパッションだからさ。
ギャビン選手はもはや、チームの助っ人ではなく、チームの柱として千葉ジェッツふなばし、日本代表を引っ張っていくのだろうと確信した。今シーズンもすぐ始まる。彼の活躍に期待したい!
(スポーツアンカー 山田幸代)
◆Bリーグ 2020-2021シーズンは10月2日に開幕。千葉ジェッツの初戦は10月3日、アウェーでの三遠ネオフェニックス戦。ホーム開幕戦は10月17日の宇都宮ブレックス戦となる。