今シーズン、史上最速でのNPB通算1500安打を達成した。他にも、史上初めてとなる2度目のシーズン200安打、さらには日米通算2000安打。NPB歴代最高打率の保持者でもある。


6月15日西武戦でベンチに迎えられるヤクルト青木
6月15日西武戦でベンチに迎えられるヤクルト青木

すべて、ヤクルト青木宣親外野手(37)が到達している記録だ。新人王も獲得しており、首位打者3度、最多安打2度、盗塁王1度。“安打製造機”と呼ばれ、数字だけ見れば間違いなく「輝かしい成績」。しかし、それをやってのけた本人は言う。

「輝かしいと言えば、そうかもしれない。でも、いつも必死でした。中学生の頃からずっと、目の前は壁だらけだったタイプ。今の自分に、満足していないからだと思う。今も、満足できていないです」


「諦めそうになった」ロイヤルズ時代

苦しみを乗り越えた経験は、自信となり今の自分を作っている。最大の壁は、メジャーに挑戦して3年目の14年、ロイヤルズ時代に訪れた。

「本当に調子が悪くて、苦しかった。崖っぷちだった。自分が持っているものの中を探しても、新しいものを探してもダメで、諦めそうになった」


今年5月22日阪神戦で1500安打を達成した青木
今年5月22日阪神戦で1500安打を達成した青木

左足の付け根を痛め、渡米後初めてとなる故障者リスト入りを経験した。不振にも苦しんだ。追い詰められた時、今後の野球人生を左右する言葉を贈ってくれたのは、イチロー氏だった。食事をともにした際「考えてもダメなら、もう1回考えたら。打てるまで考えればいい」とアドバイスを受けた。目の前が、一気に開けたような気がした。

「イチローさんが言ってくれたことで、もやもやしていたものがすべて晴れた。それくらい、自分にとって必要な言葉だった。その後の野球人生においても、考えがすぐにまとまるようになった」


ずっと打破できなかったことが

打撃不振に陥ったとき、どうしたら打てるのか。「気持ちの問題」と片付けて一度は脱出しても、また不振になった際には抜け出せなくなる。その負の連鎖は、自分で断ち切らなければならない。

「気持ちの問題と解決しても、またその状況になったときに、繰り返してしまう。俺は今まで、ずっとそういう思考回路でやっていて、打破できなかった。だから、そこから自分が、さらに突き詰めるようにした。分かるまでやる」


2014年ワールドシリーズ第6戦で適時打を放つロイヤルズ青木
2014年ワールドシリーズ第6戦で適時打を放つロイヤルズ青木

必要なものが練習量なら、とにかくバットを振った。フィジカルに問題があるなら鍛え、ケアに時間をかけた。道具が気になるなら、細部にまでこだわって調整した。野球にまつわるすべてのことに、神経を使った。

このシーズン、前半戦の打率は2割6分。ケガからの復帰後は、2番打者として定着した。地区優勝は逃したものの、1985年以来29年ぶりとなるワールドシリーズ進出に貢献。世界一には届かなかったが、壁を乗り越えて大舞台にたどり着いたシーズンは、その後の糧になった。シーズンを終えた時の打率は、2割8分5厘だった。

「人は、10でできると知っていたら、8で諦めていることが多い気がする。もう少しのところで諦めて終わることが多い。それを9、10までいくように、自分はそこができるまでやる。いつも10までやろうと思っている。それには、また同じ状況になっても、こうすればいいと分かっていれば、自分の1つの引き出しになる」


失敗しないと何もわからない

ヤクルトに復帰した昨季、通算打率の対象となる4000打数に達した。現在も、歴代最高打率を保持する。日本球界の歴史をつくってきた偉大な打者を抑えて首位にいる意味とは。それだけ打ち続けているということ。スランプに陥らない術が、自分のロジックの中にあるからだ。

「基本的に、失敗しないと何もわからない。俺も、今まで失敗だらけです。数字だけを見たら、『輝かしい成績残してます』という感じだけど、やっている本人からしたら、小さな失敗をたくさんしている。大きな失敗をしていないだけで、小さな失敗を重ねている」

失敗と成功体験を積み重ねて、今年は37歳。一般的にはベテランと呼ばれる年齢だが「37歳の実感はない」とくったくなく笑う。レギュラーとして主に2番でスタメン出場を続けるから、その言葉にも納得だ。


5月17日のDeNA戦で通算100号を放った青木
5月17日のDeNA戦で通算100号を放った青木

「自分は、こうやって米国に行って、日本に帰ってきて、違う自分で野球やっている感じがする。だから、すごい幸せなんです。いつかは衰えが出てくるんだろうけど、今のところ何も感じない。これがずっと続くといいなと思っています。そしたら、ずっと現役です!」

プレーだけでなく、声で、背中で、チームを引っ張っている。今季は5月から6月にかけて、球団ワーストの16連敗を喫した。ベテランとして、主力として、思うことは多かった。常に頭にあるのは、チームのこと。今季初めての選手ミーティングを、主導した。投手陣も含めた全員をクラブハウスに集め、自分の意見だけでなくベテラン勢に壁を乗り越えてきた経験談を語ってもらった。一方で、連敗中に2ミリの丸刈りにした姿は、まさに野球少年だった。年下からのいじりを笑顔で受け止め、雰囲気を盛り上げる“道化役”を買って出た。


ヤクルト青木宣親
ヤクルト青木宣親

2ミリの丸刈りでいじられても

「いつも、チームのことを思う。年齢や経験で今の自分が形成されていて、そういう(ベテランという)立場で帰ってきた。今も『やってやるぞ』という気持ちだけです。自分のプレーでチームが勝った時は、すごくうれしい。野球は9人だから自分ができる範囲は限られているけど、それでも『ここで』という流れの時に決められるのが、うれしい」


4月の中日戦で代打サヨナラ本塁打を放ち、ファンと一緒にバンザイ
4月の中日戦で代打サヨナラ本塁打を放ち、ファンと一緒にバンザイ

「同志」と呼ぶ同世代で、現役引退の選択をする選手も多くなってきた。武内晋一氏、田中浩康氏-。名前を挙げれば、きりがない。野球界での道しるべを教えてくれたイチロー氏も今年、引退した。「やめるときは体力的な問題、野球に対しての情熱や、チームの置かれる状況とか、いろんなものを考えての話と思う」と少し考えた上で、37歳はこう続けた。

「まだまだ、いけるでしょ」

常に、現状に満足しない。壁を見つけては、ちゅうちょなく挑む。これからも“安打製造機”であり続ける。【保坂恭子】