その日、東京・秩父宮ラグビー場に未来の日本を背負うスター選手が集った。

7月3日、関東ラグビー協会が主催する対抗戦選抜-リーグ戦選抜のオールスターゲームが開催された。

新型コロナウイルスの影響により、3年ぶりとなったイベント。対抗戦の帝京大、早大、明大に、リーグ戦を引っ張る東海大…。白熱した試合後の会見では、冬の大学日本一を目指す強豪校の実力者に交じった1人の選手が話題になった。

「背が高かったですね。ちょっと異次元の大きさ。コミュニケーションも一生懸命で、すごく前向きに取り組んでくれた。体幹がぐっと締まってくれば、すごく楽しみな選手だなと思いました」

そう口にしたのはリーグ戦選抜の指揮を執った、木村季由監督(56)だった。

リーグ戦4連覇中の東海大を率いる将は、冗談交じりに笑った。

「『試合をする前に見ておきたいな』というのはありました」

身長211センチ、体重130キロ-。

リーグ戦選抜のロックとして後半に途中出場したジュアン・ウーストハイゼン(1年=東洋大)は、恵まれた体格で文字どおり、周囲から頭一つ抜けていた。

日本最高峰「リーグワン」の前身である「トップリーグ」で最長身だった元南アフリカ代表アンドリース・ベッカー(38=現コベルコ神戸スティーラーズ・アシスタントFWコーチ)でも身長は208センチだった。

おそらく日本ラグビー界の最長身選手。私もそれなりに幅広い競技の取材をしてきたが、211センチを超える人はバレーボール男子で218センチのドミトリー・ムセルスキー(33=サントリー)しか見たことがない。

ラグビーにおいても、身長は大きな武器になる。長身の選手が務めるロックは、大学生レベルで約190センチ、国際レベルで約200センチが「長身」の基準といえるだろう。ラインアウトで相手と並んだ際、単純計算で10~20センチのアドバンテージを得られることになる。

ウーストハイゼンはベッカーと同じ南アフリカからやってきた。身長193センチでゴルフに取り組んだ父、183センチでネットボールが得意な母の元に生まれた。

「プロゴルファーになりたかった。最初はそっちを目指していました」

ちなみに祖国にはゴルフで10年全英オープンを制した同性のスターがいるが、直接の接点はないという。

元々、異国で勉強やスポーツに取り組みたい意思を持っていた。関係者を通じて日本を紹介され、海を渡る決断をしたという。19年W杯日本大会では日本代表が過去最高の8強入り。この春に来日したウーストハイゼンは、いたずらっぽく笑って当時を思い返した。

「日本はW杯ですごくいい試合をしていました。最後は『(準々決勝で)南アフリカが日本に勝って良かった』と思いましたが…。日本に実際に来てみて、すごく(プレーが)速く、フィジカルもしっかりしている実感があります」

W杯後は優勝した南アフリカ代表ロックのエバン・エツベス(30)が、自身の通う高校に来てくれた。

身長203センチのエツベスを尊敬するが、2人で写真に納まると、自身が8センチも高い。SNSに投稿した1枚は、ちょっとした話題となった。東海大の木村監督が「異次元の大きさ」と評したのもうなずける。

新天地に選んだ東洋大は昨季の入れ替え戦を制し、今秋から29年ぶりにリーグ戦の1部を戦う。自ら「まだ慣れていない」と日本語習得の難しさを痛感しているウーストハイゼンだが、オールスターの試合後は応援に駆けつけた東洋大の仲間と写真を撮って笑った。

「床でマットレスを敷いて寝ていますが、南アフリカでもかがまないといけない生活でした。そこまで苦労はしていません。生活はちょっとずつ慣れてきました。秋はタフな試合が多くなるけれどチャレンジし、ベストを尽くしたいです」

気になるのは将来のプラン。開口一番に発したのは「日本でプロになりたい」という意思だった。一方で「もし今、日本と南アフリカ、両方のチームから声がかかったら?」という仮定の質問には本音が漏れた。

「今だったら南アフリカに帰りたいかもしれません。でも、4年後は(思いが)変わっているかも…」

見る側は継続して選手の成長、思いの変化を追う楽しみがある。夏を越えると、あっという間に大学ラグビーの季節がやってくる。

関東リーグ戦開幕は9月10日。2部から昇格したばかりの東洋大は翌11日、いきなり王者の東海大に挑戦する。【松本航】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。武庫荘総合高、大体大ではラグビー部に所属。13年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社し、プロ野球阪神担当。15年11月からは五輪競技やラグビーを中心に取材。21年11月からは東京本社を拠点に活動。18年平昌、22年北京五輪と2大会連続でフィギュアスケート、ショートトラックを担当。19年はラグビーW杯日本大会、21年の東京五輪は札幌開催だったマラソンや競歩などを取材。

7月3日、関東大学オールスターゲームに臨んだ身長211センチのリーグ戦選抜ロック、ウーストハイゼン(左から3人目)
7月3日、関東大学オールスターゲームに臨んだ身長211センチのリーグ戦選抜ロック、ウーストハイゼン(左から3人目)
7月3日、関東大学オールスターゲームに臨んだ身長211センチのリーグ戦選抜ロック、ウーストハイゼン(右)
7月3日、関東大学オールスターゲームに臨んだ身長211センチのリーグ戦選抜ロック、ウーストハイゼン(右)
7月3日、関東大学オールスターゲームを終えて写真に納まる身長211センチのリーグ戦選抜ロック、ウーストハイゼン
7月3日、関東大学オールスターゲームを終えて写真に納まる身長211センチのリーグ戦選抜ロック、ウーストハイゼン