全国高校ラグビーは今日30日、シードの9校が登場して2回戦が行われる。常翔学園(大阪第3)は29日に天理(奈良)戦に向けて大阪市内の同校グラウンドで最終調整した。1年の夏合宿時に頸椎(けいつい)脱臼骨折を患ったフランカー金沢功貴主将(3年)は、車いすに乗ってベンチ入り。支え合いの心で生まれた絆を胸に、3大会ぶり6回目の優勝へ突き進む。

 聖地を知らない常翔学園メンバーが部歌を歌い、膝下へのタックル練習で最後の準備を終えた。3大会ぶり34度目の花園。金沢は車いすの上で「仲間と一緒に立ててうれしい。全国制覇を目指したい」と笑った。

 昨年11月に主将就任。中学では大阪府スクール選抜主将で、全国制覇を達成した。そんな金沢は現在、プレーができない。一昨年の夏にコンタクト練習で首から地面に落下。緊急手術を受けたが、胸から下の感覚が無くなった。金沢主将案には当初、野上監督が「きれい事では済まへん。うちの主将は、体を張って引っ張るヤツばかりだった」とくぎを刺した。それでも仲間と金沢は覚悟を決めた。

 育まれたのはチームワークだった。淀川の堤防にある同校グラウンド。バリアフリーとかけ離れた階段や傾斜を前に、寄り添うのは常時約8人の部員だ。車いすごと金沢を持ち上げ、にぎやかに移動が始まる。周囲から見れば異様でも、ラグビー部では日常だ。

 一方の金沢は今年3月からビデオ解析を始めた。試合映像から個人のタックル、パス数などを抽出。1人に注目して前後半60分を見ると、2人目を開始。当初は夜7時から翌朝5時までかかったが、今は違う。「みんなの動きが分かったら、時間が短くなったんです」。互いを深く知ることで、信頼関係は深まった。

 花園に向かう金沢は野上監督の言葉を胸に刻む。「使えるヤツがメンバー。使えんかったら外すぞ」。戦うのは全員だ。【松本航】