「正直、今までの柔道人生で一番ボロボロなのかな…」。リオデジャネイロ五輪男子90キロ級金メダルのベイカー茉秋(22=日本中央競馬会)が1回戦で右肩脱臼のため途中棄権し、治療後にこう言った。90キロ級の“第一人者”として活躍してきたベイカーの弱音とも取れる発言だった。

 小林悠輔との対戦で払い腰を受けた際に右肩を脱臼。畳から起き上がることができず、係員の肩を借りて車いすで退場した。ベイカーは昨年2月に右肩を亜脱臼し、慢性的な痛みに悩まされてきた。「払い腰をかけられた時に『グキッ』と音がして、右肩が上がらなくなった。完全な脱臼は初めてで、今まで感じたことのない痛みだった」。

 リオ五輪の時には痛みを感じずに出場したが、昨年12月の稽古で再び痛めて、医師から右肩関節唇損傷と診断された。手術は今夏にも行う予定だった。さらに、今年2月には左足肉離れでその治療もしながら稽古を行っていた。「五輪前に比べたら状態は良くない」としていたが「世界チャンピオンはまだ取っていないタイトル。五輪チャンピオンとして絶対的な王者になる」と決意し、今夏の世界選手権を目指していた。

 この日、大会後に全日本柔道連盟の強化委員会が行われ、最重量級を除く男女12人の世界選手権代表者が発表された。男子90キロ級はベイカーを「第1候補」とし、男子代表の井上康生監督は「けがの診断結果を踏まえた上で決めたい。医師と本人に確認して、その後、強化委員会で決めます」と説明した。

 ベイカーは無差別で争う29日の全日本選手権(日本武道館)にも出場予定。「尊敬する井上監督も優勝した憧れの舞台に出場したい気持ちはあるけど…今は何とも言えない」。リオ五輪後の目標は、あくまでも20年東京五輪での連覇を掲げている。3日には新社会人として日本中央競馬会に入社する。これまでの人生で最大の失敗は「ない」と言っていたベイカーにとって、最大のピンチなのかもしれない。