テニスの4大大会、全仏オープンが26日にパリで開幕する。クレー(土)コート最高峰の舞台で、特徴的な赤土は数々のドラマを演出する。第3回は「全仏の赤土の秘密と4大大会のコートサーフェス」だ。

赤土最大の特徴は、バウンドしてからの球足が遅く、なかなか1ポイントが決まらないことだ。また、フットワークも足を滑らせることが可能なため、球足の遅さと滑らせるフットワークで、守備範囲は広くなる。1ポイントを取るために、テニスが持つすべてのショットを駆使することが要求される最もタフなコートだ。

赤“土”と言うが、実は土ではない。全仏の赤土は、伝統的に、フランス北部のランス近郊でつくられたレンガを粉状にしたものだ。全仏のコートは5層になっており、表面の1層に赤土が1~2ミリ、敷き詰められている。2層目には石灰岩、3層目にはクリンカーと呼ばれるセメントの原料を焼いて固まりにしたもの、4層目に砂利、最下層が石をつめた排水溝になっている。5層までの深さは約80センチ。構造は、昔から全く変わっていない。

赤土はフランスだけでなく、欧州全土、そして南米でも非常にポピュラーなコートだ。北米、アジアをのぞいた世界の大半が、赤土でプレーしている。少々の雨でもプレーが行えるため、フランス語で晴雨兼用傘を指す商標だった「アンツーカー」が、今は一般名詞として使われている。赤土ではなく、クレー(土)ならば、北米にも日本にも素材が違うものが存在する。北米で有名なのは、玄武岩が原料の緑の土だ。日本では、荒木田土に見られる粘土質のクレーが多い。

日本も、70年代までは、クレーがコートサーフェスの大半を占めていた。しかし、コート整備のための手入れが大変で、質を保つためには、年に1回ほど、掘り起こしを行い、固め直す必要がある。整備に時間と手間、そして経費がかかるクレーは、80年代に入ると、バブル経済から、ハードに様相を変えていった。

4大大会は、全仏の赤土、ウィンブルドンの芝、そして全豪、全米のハードがコートサーフェスとなっている。3つの異なるサーフェスを制することは、それぞれの特徴が違うため、非常に難しい。その中でも、大会が創設されて以来、全くサーフェスが変わっていないのが全仏とウィンブルドンだ。

全豪は87年まで、全米も74年まで、芝コートで行われていた。つまり74年までは、4大大会は、全仏を除いて、すべて芝で行われていたのだ。しかし、全豪、全米ともに、会場が民間クラブで、普段、会員がプレーする。そのため、大会に向けた芝の維持が難しく、選手からの要求もあり、変更を余儀なくされた。ウィンブルドンも民間クラブだが、センターは大会2週間のためだけに使用するなど、徹底した管理を行っている。

全豪は88年から現在の会場に移り、ハードコートとなった。全米は、会場は同じで、芝を前述した緑のクレーコートに75年から変えた。しかし、その途端、地元米国選手が勝てなくなり、78年から現在の会場でハードコートを採用した。クレーは、わずか3年の命で姿を消した。

◆全仏オープンは、WOWOWで5月26日~6月10日、連日生中継。WOWOWメンバーズオンデマンドでも配信。