岩見沢から競技の発展を目指す。北海道教大岩見沢1年の田中祥兵(38)と藤原香夏(19)が、競技者が国内ではこの2人しかいないソリ競技「ナチュラルリュージュ」の普及に奔走している。ともにオリンピック(五輪)種目のリュージュ(アーティフィシャルリュージュ)やスケルトンでトップ選手として活躍。将来の五輪種目採用も視野に入れ、年の差19歳コンビが競技の魅力と可能性を広めていく。

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林道やゲレンデの雪を固め、水をまいた氷上のコースでタイムを競う「ナチュラルリュージュ」。五輪種目の一般的なリュージュと違い、自然の中につくられたコースを滑走する。普及を目指し37歳で北海道教大岩見沢に入学した田中は「日本でやっている人は僕らしかいない。競技を広めて岩見沢をソリの町にしたい」。強い決意で未開拓の競技に挑んでいる。

田中は03年、22歳で脱サラしてソリ競技を始めた。国内唯一の競技場、長野スパイラルが18年3月に製氷休止に。活動拠点を失ったタイミングで、競技関係者から国際リュージュ連盟(FIL)のナチュラルリュージュ強化プログラムの案内が届いた。「どうせ海外に行くなら、誰の手にも触れられていない競技で力を伸ばそう」。そこでスケルトンで実績のあった藤原と同年末に海外に渡った。

初めて触れる未知の競技。藤原は「一緒なのはソリ競技というくくりだけで全然違う」。オーストリア東部での合宿では道具の扱いからブレーキ操作など一から学んだ。速度は直線で70キロほどだが、コーナリングなど高い操作性が求められ「めっちゃ怖かった」。

世界10カ国以上が参加した約2カ月半のプログラムでは、FILの判断で予定になかった大会にも出場。W杯予選にあたるネーションズカップに初めて出場した際は「『安全第一』と言わたけど、公式練習で初めて(コースを)通して滑った。死ぬほど緊張した」と田中。半月足らずで国際大会デビューし、1カ月後には世界選手権にも出場。世界最高峰の舞台は2人の脳裏に焼きついた。

帰国後は大学に「そり部」を立ち上げ、競技普及と環境整備に奔走。岩見沢市とは冬季期間にいわみざわ公園内の土地利用で合意。積雪不足で今冬は本格的なコース作りは断念したが、今年2月にはソリ競技の体験会も実施した。FILは将来の五輪種目採用を目指す。26年大会は競技が盛んなイタリアが開催地。札幌が立候補している30年大会も見据える田中は「ナチュラルリュージュが岩見沢で開かれる可能性も出てくる。この場所から選手を輩出したい」。先駆者としての使命を胸に、1歩1歩歴史をつくり上げる。【浅水友輝】

 

ナチュラルリュージュってこんな競技

◆コース 全長400メートル~1200メートルで、左右のカーブ、急カーブ、連続するカーブ、直線がそれぞれ少なくとも1カ所設定される。速度は最高140キロに達するアーティフィシャルの半分ほどだが、幅が3メートル以上と広くトップ選手でもコーナーで壁に激突することが多い。初心者の藤原は「コースの壁に足をはさんで『Are You OK?』って何度も言われた」。

◆用具 エッジやブリッジが金属で土台が繊維強化プラスチックを利用するアーティフィシャルのソリが70~80万円するのに対し、フレーム以外が木材で作られるナチュラルのソリは20~30万円と安価。着用するユニホームもアルペンスキーやスピードスケートのものが代用できる。また速度制御が必要な競技であるため、スパイクがついた専用のクツと手袋を着用する。

◆競技会 主な国際大会はW杯と79年に第1回大会が行われ現在は奇数年に開催される世界選手権。19年は男子が21カ国52人、女子が14カ国25人が出場した。競技形式は1人乗りと2人乗り、チームリレー。五輪のリュージュで金メダル2個を含む6大会連続メダルのイタリアの英雄アルミン・ツェゲラーは、ナチュラルからアーティフィシャルに転向した選手として有名。