結成2季目の村元哉中(かな、28)高橋大輔(35)組(関大KFSC)が日本勢最上位の6位に入った。FD108・76点の合計179・50点を記録し、リズムダンス(RD)、FD、合計の全てで日本歴代最高。22年北京オリンピック(五輪)代表1枠を争う7位小松原美里、尊組(倉敷FSC)を上回り、大一番の全日本選手権(12月、さいたまスーパーアリーナ)へ大きな1歩を刻んだ。

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四方八方から降り注ぐ拍手に包まれ、高橋が村元と抱き合った。「やっと終わったんだな」-。その瞬間に周囲を見渡し、1年前からの成長を実感した。初の国際スケート連盟(ISU)公認スコアで、直前の小松原組を上回り、目に入ったのは日本歴代最高得点。喜びをかみしめて「大きなミスなく、大きな舞台を終えられた。1つの自信になった」と胸を張った。

10年バンクーバー五輪銅メダル、世界選手権優勝-。2年前までシングル選手として第一線を歩んだ。ある日、同じチームの後輩選手に「私の応援の声って聞こえてる?」と尋ねられ、こう答えたことがあった。

「試合中は何も聞こえないよ。滑っている音、音楽…。それしか聞こえない」

19年12月。シングル最後の演技は、同じ代々木で行われた全日本選手権だった。その日、後輩選手の声が耳に入った。高橋は言う。

「練習で不安要素が多いと声が聞こえます。例えば街で鳥が鳴いていても『さえずっているな』とは思わない。実際には聞こえてはいるけれど、聞こえていると認識しないぐらい、集中した方がいい演技になる」

1年前のNHK杯ではエッジ(スケート靴の刃)が村元の足に当たった。多回転の片足ターン「ツイズル」では転倒。演じるのは同じ「ラ・バヤデール」だった。この日は前回5項目全てで7点台(10点満点)だった演技構成点のうち、演技表現など3項目で8点台に乗せた。村元が笑った。

「演技が終わるまで大ちゃんしか見えていなかった。1つ1つに自信を持ってできるようになりました」

カップル結成以来、信じ続けた北京五輪の代表入り。不安要素を消すほどの準備で夢へ1歩前進し、高橋は次の課題に目を向けた。

「スケーティングは時間をかけて、コツコツとやりたい。上(の選手)はかなりGOE(出来栄え点)を稼ぐ。(技の)レベルを取れるようになってきたのでGOEを稼いでいきたい」

互いを信じ、その先にある景色を見る。【松本航】

◆アイスダンス北京五輪への道 日本代表は1枠。今年3月の世界選手権で小松原組が19位に入って出場権を獲得した。最終選考会を兼ねる12月の全日本選手権参加が必須。以下の条件で総合的に選ばれる。<1>全日本の最上位組<2>全日本終了時点の世界ランキング最上位組<3>全日本終了時点のシーズン世界ランク最上位組<4>全日本終了時点の今季ベストスコアの最上位組。

◆アイスダンス フィギュアスケートのカップル種目。男性が女性を持ち上げるリフト、スピン、ステップなどの技術と表現力で競う。ペア種目とは違ってジャンプがない。リズムダンス(RD)はシーズン課題のリズムを滑り、フリー(ダンス)は音楽を自由に選ぶ。日本の五輪最高成績は06年トリノの渡辺心、木戸章之組と18年平昌の村元、クリス・リード組の15位。