女子テニスの世界ツアーを統括し、選手組合の位置付けでもある女子テニス協会(WTA)のスティーブ・サイモン最高経営責任者(CEO)は1日(日本時間2日)、香港を含む中国での大会全てを取りやめると発表した。

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毅然(きぜん)とした主張で、WTAのサイモンCEOの株が急上昇だ。約85カ国から1650人を上回る選手個人が集まるWTAという団体の長として、数十億円の市場を捨ててでも、個人の人権や名誉を守る姿勢に称賛が集まる。

WTAは73年に設立されたが、もともとは、70年に、9人の女子選手が立ち上がったのがきっかけだ。9人の選手は、当時、ウーマンリブと呼ばれた女性解放運動の急先鋒(せんぽう)。男子と同等の権利を求め、プロテニス選手となった。

その契約金は、1人、わずか1ドル。プロになることで、自身の責任として、平等や人権を主張する姿を広めることができ、それは金額よりも大事だった。その創設当時の理念は、15年に就任したサイモンCEOにも、しっかりと受け継がれた。

21年は新型コロナの影響で、そもそも中国の大会開催はゼロ。22年もその延長だとすれば、開催中止は、そこまで痛手ではない。サイモンCEOが強気に「正論」を主張できる要因の1つだが、自分だけでなく女子テニス界の価値を高めるすご腕ぶりは見事。北京五輪開催のため、中国に寄り添い、批判を買ったバッハ会長とは対照的だった。【吉松忠弘】