ウィンブルドンの決定は、自ら同意した合意を破る行為だ。テニス界は、3月2日に、国際テニス連盟(ITF)、男子プロテニス協会(ATP)、女子テニス協会(WTA)、4大大会の主催者で構成される委員会が合同で、ロシアとベラルーシの選手の出場を個人として認めるという決定を発表した。ウィンブルドンの主催者は、そこに名を連ねている。

国名と国旗の使用は認めないが、メドベージェフ、サバレンカという個人が出場することに、国の責任を負わさないという決定だったと思う。しかし、「個人にはつらい決断だと思う」としながらも、国や政府の責任を個人の選手にも負わせたことになる。

前代未聞の決断に至った背景には、ウィンブルドンの独自性がある。4大大会のうち、ウィンブルドンを除いた全豪、全仏、全米の3大会は、同国協会が主催のナショナル大会だ。しかし、ウィンブルドンは、オール・イングランドクラブという民間クラブの主催でしかない。

ウエアは白基調、センターコートは大会2週間しか使わない、シードも世界ランクだけでなく大会独自の実力を加味など、民間クラブだからこその独自の規則がある。そのため、自身の大会の規則を独自に決めたいという気持ちが非常に強い。

また、声明の中には、「英国および世界における大会の知名度を考えると、可能な限り強力な手段でロシアの世界的影響力を制限しようとする政府、産業界、スポーツ団体などに一役買うことが我々の責任」とある。

4大大会、いやテニス界の中で抜群の知名度を誇るのが「ウィンブルドン」という名だ。そのウィンブルドンがロシアとベラルーシの選手を閉め出すことを決めれば、スポーツ界だけなく世界にロシアの行為を止める影響を与えられるというのも背景だ。

ウィンブルドンは、新型コロナウイルスの感染拡大で、20年大会を中止した。戦争以外で中止に追い込まれたことがなく、歴史的に見ても異例の決断だった。しかし、そこには「保険」というリスク回避の手段があり、中止でも財政的なマイナスは少なかった。

それと同様に、今回、ロシアとベラルーシ選手を排除しても、他の選手をエントリーリストで繰り上げることで大会は成立する。大会のブランド・イメージや、多くのリスクを考えれば、今回の決断は、非常にビジネスに裏打ちされているとも言えるかもしれない。【テニス担当・吉松忠弘】