ラグビーの関西大学Aリーグは18日に東大阪市花園ラグビー場で開幕する。注目選手を紹介する連載の最終回は、1998年以来の関西2連覇と初の大学日本一を狙う京産大で、屋台骨となるプロップの渡辺龍(4年)。

一度は退学を覚悟し、挫折からはい上がった苦労人。開幕関学大戦が、初めてのリーグ戦になる。

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2年前の秋は、開幕戦の会場に入ることさえ許されなかった。

門限を破った渡辺は、荷物をまとめて寮を出されていた。

部に戻ることはできないだろう-

そう告げられ、退学を覚悟。会場の外で1人、試合が終わるのを待っていた。

スタジアムから出てきたOBで、元日本代表プロップの田倉政憲コーチが声をかけてくれた。

転校の意思を伝える。

すると、意外な言葉が返ってきた。

「俺はな、たとえ他の大学に行ってもお前を教える。ただ、俺の下で一緒に花を咲かせて欲しいと思っている」

涙があふれた。

2カ月ほど練習には参加できていなかった。

周囲の支えで部に戻ると、マンツーマンでスクラムを鍛えてもらった。

高校は花園とは無縁。大学でも公式戦出場はない。迎えた最終学年。16日のメンバー発表で、就任2季目となる広瀬佳司監督(49)から初めてジャージーを手渡された。

背番号は「3」。強力FWが看板の京産大では、昔から“エース番号”と呼ばれる。

無名の苦労人。4年目にして、ようやく手にした公式戦のユニホームだった。

いつも、ラグビー部の練習を見ているという女子学生が、こんな話を教えてくれた。

「渡辺君は、いつも最後までグラウンドに残って練習をしているんです。スクラムとか、体幹とか。ずっとしています。今日もあがってくるのは、遅いと思いますよ」

それはまさに、涙と汗の結晶だった。

夕暮れの練習場。渡辺に声をかける。ラストシーズンにかける思いがあふれた。

「自分はこの人(田倉コーチ)と、このチームで日本一になるんだと、決意しました。たくさんの人に迷惑をかけても、僕を温かく迎えてくれた。必ず恩返しがしたいです」

挫折からはい上がる選手は、ごくわずか。

志半ばで夢や目標を諦め、去って行く選手の方が多いだろう。

弱々しかった根は努力を重ね、太い幹になった。

最後の冬、日本一という花を咲かせる時を待つ。(おわり)【益子浩一】

◆渡辺龍(わたなべ・りゅう)2000年(平12)9月7日、兵庫県生まれ。甲南中からラグビーを始め、甲南高から京産大へ。50メートル走は6秒9。176センチ、108キロ。