ラグビーのリーグワン1部クボタスピアーズ船橋・東京ベイのSO岸岡智樹(25)がオフシーズンの6~9月、全国を巡り、それぞれの場所で計9回にわたる「岸岡智樹のラグビー教室」を行った。2年目の今年は1泊2日の合宿形式にも挑戦。関東(栃木&千葉)、沖縄、関西(大阪)、東北(福島)、中部(長野)、北信越(新潟)、四国(愛媛)、九州(大分、長崎)で小中学生に接した。

大阪・東海大仰星高(現東海大大阪仰星)、早稲田大では司令塔として日本一。今も国内最高峰のリーグワンで活躍する男は、ピッチ外で「地域格差」というラグビー界の課題に向き合ってきた。2年目の活動を終え、感じたことを聞いた。【取材・構成=松本航】

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-活動2年目を終えて

「継続して見えてきたことがすごく多かったです。この活動は『地域格差』というところを考えたのが始まりなのですが、その結論が『確かにあった』となった部分です。肌感覚として元々あったんですけれど、それを実体験として目で見て、感じることをされてきた方は、それほど多くないと思います。2年間やってみて『地域格差』は確実に存在する。それを言い切れるように思います。もう1つは『ラグビー人気がある』というのも感じました」

-どういったところで「地域格差」を感じたのか

「『教室に参加する人数』という物差しでは分からないです。最初は『ラグビーが普及している地域は参加率が高い』『そうでないところは人が集まらない』と予想を立てるんですが、それはその通りではない。例えば大阪、関東近辺、福岡といった、ラグビーが強くて、競技者数も多いところと、そうでないところを比べると、競技人口では数値的に差があります。都道府県内のチーム数も違いがあります。その違いが何を生んでいたのか、というのが大事。競争や、議論が生まれにくい状況になる。情報が共有されないし、仮にされたとしても、例えば10人で話し合うか、5人で話し合うか。どちらが議論が深まるのかという話です。やはり情報の質が盛んな地域と、そうでないところには圧倒的な差があります」

-選手が得られるものも変わってくるという理解か

「例えば大阪であれば(進学時にも)ラグビーを続ける前提なんですよね。だからこそ『ちょっと強度の高い練習をしてもいい』『詳しい話をしてもいい』となる。教えている内容が違い、子どもたちが知っている情報が変わる。選手の身体能力は変わらない。身体能力があっても、そこにラグビーの知識があるかどうか。特段、能力が優れていなくてもラグビーを知っているから(盛んな地域の選手は)『うまい』となる」

-実際に教室でコミュニケーションを取って、地域で受け答えが変わるのか

「ありました。例えばラグビーの話をして和ますのか、ラグビーと違う話をして和ますのか。ラグビーが根付いている地域は、ラグビーのネタを使いコミュニケーションを取ります。そうでない地域の子と話をする場合、違う話題の方がいい時があるんです。去年は全部の地域で同じコミュニケーションをとろうとしたのですが、それではダメと僕自身が気づきました。今年はある地域ではラグビーの雑談、ある地域では『好きなYouTube何?』と話題を変えたりしました。日常にどれだけラグビーがとけ込んでいるのかの差を感じました。子どもたちにしても、学校やスクールでラグビーという題材で盛り上がる仲間がいなければ、興味が薄れるわけですよね。例えば『ジャパンとニュージーランドの試合、○○だったよね』よりも、野球の日本シリーズの話題の方が盛り上がったりする」

-「地域格差」を肌で感じて、何を思ったのか

「地域で違いすぎるし、すごく難しい話なんですよね。日常にとけ込んでいない地域に何ができるのか。最初は考えれば考えるほど難しく『足を踏み入れたらいけない分野にきた…』と正直思ってしまいました。糸口を今見つけている段階ですが、今年だと新潟、長崎は県の協会の方にサポートをしていただきました。意見交換をしていると、県のプロジェクトの一環として、例えば体育の授業にタグラグビーを取り入れたり、試合を招致したり、いろいろな独自の取り組みをされています。その県の現状と、今後のアプローチを一緒に考えてやっていくというのが1つだと思います」

-教室の人数は地域に関係なく集まっているのか

「人は結構来てくれました。みんなラグビーが好きなのは変わらない。ただ、知識は違う。次のカテゴリーでもラグビーを続けることで生まれるメリットって、ものすごくあると思うんです。そこに至るには、どうしたらいいのか。例えば新潟出身に男子の稲垣啓太選手、女子の原わか花(わかば)選手がいる。原選手に今回ゲストで来ていただいたんですが、人気がものすごいんです。新潟のスターで子どもたちも憧れている。非常にいい光景がありました。そこで生まれ育った人は、地域でよく知られている。こういう部分にもヒントがあると思います」

-活動を通じて、なぜ「ラグビーに人気がある」と

「一例を挙げると愛媛で人数が集まったところですね。新潟や長崎も含めて、ネットワークが狭いんです。1つ話を回せば、高い確率で関係者に情報を届けることができる。そうすると応募の数が増える。19年W杯日本大会の影響もあり、小学生年代が増えている肌感覚はあります。そこから中学生になって続けるための受け皿など、課題はあるのですが、W杯の時に小学校低学年だった子たちが始めて、今、高学年になっている。『いつから始めたの?』と聞くと、僕たちの世代だと小学校前のケースが多い。でも、割と小学2~4年生から始めている印象です。W杯から3年がたっているので、その子たちが高学年になっている。W杯の盛況ぶりが、ラグビーを始めるきっかけを与えている事実は分かりました」

-今後は

「全国へ足を運んでいなくても、例えば協会の普及担当の方々がイメージしていたこと、僕が現実に見えたものは乖離(かいり)がないはずなんです。僕個人のイメージが確信に変わった部分はありますが『別にやらなくても良かった』というのは、確かにそう。やったことに誇りは持っていますが、ものすごい解決策を提示できるような状態にもない。実際に行った人も行っていない人も、横一線になっている状態だと思います。ただ、この2年でさまざまな方と会い、ネットワークができたことは誇れる部分です。活動をやめる選択肢はないです。行動力というところで、ここから突き抜けていけば、まだ見えなかった部分が見えてくる。ここからは、伸びしろしかないと思っています」