フィギュアスケートのアイスショー「スターズ・オン・アイス」大阪公演(30、31日)のリハーサルが29日、会場の大阪・東和薬品ラクタブドームで行われた。23日に閉幕した世界選手権各カテゴリー覇者が出演。男子を制したイリア・マリニン(19=米国)は、和やかな表情で動きを確認した。同選手権のフリーではクワッドアクセル(4回転半)など6本の4回転ジャンプを決め、世界最高227・79点を記録。「4回転の神」と呼ばれる19歳は、26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪を見据え、理想のスケーティングを明かした。

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世界選手権フリーで4回転5種6本の「神演技」を披露したマリニンには、理想がある。「お客さんに、まるで夢を見ているんじゃないかと思わせるような演技がしたい」。

世界でただ一人、点数が付与されている中で最も基礎点の高い4回転半を跳ぶ。しかし、跳ぶだけでは満足しない。「僕のスタイルとして難しい技に挑戦しながらも、難なくできているかのような印象を与えたい」。どんな大技もまるで振り付けの一部のように跳び、自分のスケーティングの世界に引き込みたい-。そんな願いを「夢」という言葉に込めた。

世界選手権では、自身が夢のような世界にいた。ショートプログラム(SP)3位で臨んだフリー。けがで大会直前まで出場を悩んでいたようには思えない完璧な演技で、合計333・76点の逆転優勝。6日たったこの日も、まだ信じられないように「こんなに早いタイミングでチャンピオンになるとは。驚いているし、すごく不思議な気分」とほほ笑んだ。

世界王者になっても、落ち着きがある。胸には、憧れるチェンからの言葉。「大きな大会で優勝した後は、自分がやってきたことに自信を持てば良い」。世界選手権3連覇、22年北京五輪金メダルなどの経験から出る、重圧との向き合い方。その精神は、次世代を担うマリニンに受け継がれ「世界選手権の結果が良かったことも、次のシーズンも頑張ろうっていうモチベーションにつながっている。自分の限界に挑戦していきたい」と前を見た。

「夢」のような演技を目指す先には、ミラノがある。合計点ではまだ届かない同じ米国の22年五輪金メダリストから、王者の勲章を受け継ぎたい。

最高峰の舞台で頂点に立つために、来季は「お客さんが見てユニークだと思ってもらえる」ような表現力も磨く。武器の高難度ジャンプ以外の部分でも、1つ1つの動きを細部までこだわり、突き詰める。それが観客の心をつかむ「夢」の演技につながると信じている。

もちろん、武器も戦略的に使っていく。来季4回転半や5回転に挑むかは「それは、シークレット」と明かさなかったが、マリニンなら可能なのでは、と期待が高まる。果たして2年後、どんな「夢」をみせてくれるのか。「オリンピックも、きっと良いコンディションで臨めるはず。一貫性を持って練習を積んでいく」。まっすぐな瞳は、しっかりとイタリアの地を見据えていた。【竹本穂乃加】

 

◆スターズ・オン・アイス 86年に北米で開始された世界最高峰のアイスショー。世界選手権メダリストらを中心に、世界のトップ選手が出演する。今回は日本勢では坂本花織(23=シスメックス)、宇野昌磨(26=トヨタ自動車)ら、海外勢ではマリニンのほか同選手権ペア覇者のステラートデュデク、デシャン組(カナダ)やアイスダンスを制したチョック、ベーツ組(米国)らが登場。大阪公演(30、31日、東和薬品ラクタブドーム)と横浜公演(4月5~7日、横浜アリーナ)が開催される予定。