今夏のパリオリンピック(五輪)代表で、史上初の兄妹同日2連覇を目指す男子66キロ級の阿部一二三(26)と女子52キロ級の詩(23=ともにパーク24)が、ともに完全優勝を決めた。パリ前最後と予定している実戦で、そろって全5試合をオール一本勝ち。盤石の実力差を見せつけた。

技の応酬から大内刈りでエモマリ(タジキスタン)の背中をつかせ、男子66キロ級決勝を49秒で制した。一二三は、当然とばかりに表情をほぼ変えず、畳を後にした。今年初戦にしてパリ五輪前最後の実戦は5試合全て3分以内で一本勝ち。海外勢には18年7月を最後に負け知らずで、冷静に強敵を次々と仕留める姿には風格さえ漂う。

収穫に挙げたのはブシタ(モロッコ)との3回戦だ。得意の担ぎ技を警戒し、腰を引いて構える相手をどう攻略するか。重点的に強化したのが足技だった。探り合いから一気に前進して小外刈りを決め「練習した成果が出た。あれは良かった」と胸を張った。大会全体では得意の袖釣り込み腰が健在。接近戦でも強さを示し、引き出しの多さが光った。今回のテーマだった「予想のつかない柔道」を体現し「なかなか悪くはなかった」と不敵に笑った。

日本男子の鈴木監督は足技が発展途上であることを指摘し「伸びしろは十分ある」とさらなる成長を求めた。妹との2大会連続の五輪同日優勝へ、期待は高まるばかり。一二三は「ひたすら強さを求めている」と慢心なく、己を磨く。

■阿部詩、決勝わずか10秒

まさに電光石火だった。東京五輪銅メダルのジャイルズ(英国)との女子52キロ級決勝。詩は組み手争いで「相手の力があまり伝わってこなかった。いけるかな」。切れ味抜群の内股を決め、開始わずか10秒で終わらせた。2連覇が懸かるパリ五輪前最後の大会は、腰に不安を抱えていたが「いざ試合をしてみれば調子が良かった」と杞憂(きゆう)に。女王の強さが際立った。

昨秋から腰痛に悩まされ、十分に練習を積めていなかった。そんな万全の状態ではない中で「自分自身の持っている柔道をするしかなかった」と、小細工には頼らなかった。速攻に寝技を交えるなど、一本勝ちを連発。日本女子の増地監督も「試合への集中力が相手よりも上回っている」とうなった。

頭一つ抜けた実力で2度目の大舞台へと向かう。兄、一二三とともに歩む連勝街道で怖いのは慢心だけだ。「自分自身を突き詰める立ち位置になってきた。大変だが、それを乗り越えると強くなれる」。自らと向き合い、より高みを目指す。

■角田夏実もオール1本でV

女子48キロ級では、世界選手権3連覇の角田夏実が全5試合一本勝ちで制した。痛みを抱える右膝に加え、準々決勝で左膝も負傷。「何回も危ないと思った」が粘り強く指導3の反則勝ちを収め、患部にテーピングを施して残り2試合も勝利した。準決勝は数年前から研究してきたという肩車で一本。必殺のともえ投げと関節技は対策されており「いろいろ引き出しがあることをアピールできた」と喜んだ。