斉藤立(22=国士舘大)が、怪物テディ・リネール(34=フランス)に再び屈した。

今夏のパリ五輪(オリンピック)代表に内定している男子100キロ超級の斉藤が、決勝でリネールと公式戦では2度目となる対戦を迎え、逆転負けした。序盤から仕掛け、内股で1つ目の指導、体落とし2連発で2つ目の指導を奪ってリードしたが、残り31秒、さらに攻めて内股にいった結果、長い手足を生かしてひっくり返され、技ありを奪われた。

金星の大チャンスから一転、銀メダル。試合が終わった瞬間、顔をしかめ、頭を抱えるそぶりで悔しがった。

身長192センチ、体重165キロで204センチ、145キロのリネールに真っ向勝負を挑んだ。しかし、五輪の金メダル2個、世界選手権では2階級で計10度の優勝を誇る絶対王者、パリ五輪の顔と言えるフランスの英雄の壁は高かった。

初対戦は昨年5月の世界選手権ドーハ大会。指導3の反則負けだった。組み手争いで主導権を握られ、ゴールデンスコア(GS)方式の延長戦に入って3分14秒(計7分14秒)で力尽きた。

序盤こそ内股や大外刈りで怪物の体勢を崩し、場内を沸かせたが、徐々に地力で押され、受ける時間が長くなり、疲労が限界に達した終盤は技が出なくなった。15年に亡くなった仁さん(享年54)との、全階級を通じて日本勢初となる親子での世界選手権優勝という夢を阻まれていた。

その2カ月後、スペインでの国際合宿で乱取り稽古で「5、6回」リネールと手合わせし「デカさに慣れた」。今年2月のGSパリ大会は現地観戦し、地元の大声援を背に優勝した姿に刺激を受けた…だけでなく、格上の試合を目に焼きつけて、勝つイメージを膨らませた。

そして今大会、逆転勝利などを重ねて2度目の挑戦が実現する決勝まで勝ち上がっていたが、まだ足りなかった。

それでも、前回対戦に比べれば内容は大きく上向き、次こそ…の手応えを得たはずだ。その次は、相手の完全ホームとなるパリ五輪。今月8日には22歳の誕生日を代表合宿中に迎え「オリンピックで優勝。金メダルを取るか取らないかで人生が変わる。お父さんとのつながりとか、お母さん(三恵子さん)とか家族のために、必ず優勝したい。全てを出し切りたい」と誓いを立てており、より目標が明確になった。

父は男子95キロ超級の時代に84年ロサンゼルス、88年ソウル五輪を連覇した。次男の立が、最重量級の金メダルを、日本の看板を奪い返す日は、本番に取っておく。

日本柔道初となる親子2代のオリンピック制覇へ、怪物に4カ月後、借りを返す。【木下淳】

◆斉藤立(さいとう・たつる)2002年(平14)3月8日、大阪府生まれ。東京・国士舘高から国士舘大を今春卒業。4月からJESグループに入社する。柔道は5歳から始め、父譲りのセンスで小中高大すべて日本一。男子100キロ超級で18、19年全国高校総体など優勝。21年のGSバクー大会でシニアの国際大会を初制覇した。22年に史上初となる全日本選手権の親子優勝を遂げた。20歳1カ月は史上3位の年少記録でもあった。同年12月の世界マスターズも優勝。得意技は父直伝の体落とし、払い腰、内股など。血液型O。