今夏のパリ五輪代表に内定している男子100キロ超級の斉藤立(22=国士舘大)が、怪物テディ・リネール(34=フランス)と再戦し、返り討ちに遭った。昨年5月の世界選手権で敗れた絶対王者への2度目の挑戦も、指導2をリードしながら逆転負けした。涙の銀メダルに終わった借りは8月2日のパリ本番で返す。男子90キロ級の村尾三四郎(23=JESグループ)は優勝。100キロ級の東京五輪金メダリスト、ウルフ・アロン(28=パーク24)は不戦勝で同級の3位となった。

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斉藤の叫びが通路に響き渡った。「あー! 何でや。勝負できたやろ…」。リネールに及ばず、頭を抱え、畳を下りると悔しさがあふれ出た。フランス国歌が流れた表彰式では涙が止まらなかった。金メダルを狙う約4カ月後のパリ五輪へ最高の弾みをつける、自信を深める好機を逃した。

日本の192センチ、165キロがフランスの204センチ、145キロと決勝で真っ向勝負。序盤から課題の組み手争いで進化を示し、内股で1つ目の指導、体落とし2連発で2つ目の指導を先攻した。「自分が圧倒的に攻めていた」。ところが残り31秒、仕留め切れず焦り「がむしゃらに入り過ぎた」という内股を返され、転がされ技あり献上。金星が一転、銀メダルにくすんだ。

五輪制覇2度、世界選手権は優勝10度を誇るパリの英雄には、まだ届かなかった。初対戦は昨年5月の世界選手権で、指導3の反則負け。老練な組み手に延長戦で力尽きたが、当時に比べれば長足の進歩だ。この4月から新社会人となり、JESグループに入社する大器は「もう勝てる。恐怖心はない。自分はまだまだ強くなる」と実感できた。

敗れはしたが、五輪前最後の実戦で夢が明確になった。先月8日に22歳の誕生日を迎え「目標は、お父さんとのつながりもあるし、五輪で優勝。金メダルを取るか取らないかで人生が変わる」。父は15年に亡くなった五輪2連覇の仁さん。その次男が、最重量級の頂点をパリ本番で奪回する道筋は見えた。日本柔道初となる親子2代の金へ、怪物に4カ月後、借りを返す。

◆斉藤立(さいとう・たつる)2002年(平14)3月8日、大阪府生まれ。東京・国士舘高から国士舘大を今春卒業。柔道は5歳から始め、父譲りの技で小中高大すべて日本一。21年のGSバクー大会でシニアの国際大会を初制覇した。22年に史上初となる全日本選手権の親子V。20歳1カ月は史上3位の年少記録でもあった。同年12月の世界マスターズも優勝。得意技は父直伝の体落とし、払い腰、内股など。血液型O。