<アジア大会:テコンドー>◇女子49キロ級決勝◇17日◇中国・広州

 テコンドー界のエリカ様が、2012年ロンドン五輪のメダル候補に躍り出た。女子49キロ級の笠原江梨香(20=大東大)が、決勝で08年北京五輪金メダリストの呉静■(中国)に1-13で完敗したが、同競技の日本女子史上初の銀メダルを獲得した。アジア大会では、00年シドニー五輪銅メダリストの岡本依子の、98年バンコク大会での銅メダルを上回る快挙となった。

 笠原はどうしても一番光り輝くメダルが欲しかった。相手は半年前のアジア選手権決勝で敗れた北京五輪金メダルの呉。得意の左上段蹴りと空手仕込みの突進力で前へ出る。だが試合巧者の相手に横への動きでかわされ、カウンターでポイントを奪われた。1-13の完敗だった。出発前に地元後援会に「金メダルを必ず取ってきます」と宣言。それだけに女子史上初の銀メダル獲得にも「金を狙っていた。結果として残せたものがあったのはよかった」と喜びは半減した。

 小1で空手を始めた。地元で空手道場の館長を務める父仁さん(38)は「学校で男の子に物言われても言い返せなかった。精神的に強くなれるように始めさせた」と明かす。当初は試合に出ても初戦敗退。だが母裕美さんに「やりたくない」と言っても父の前では何も言わずに空手を続けた。練習を週3日やるようになり、勝利の喜びを知った。

 高1から父の勧めでテコンドーを始めると格闘技漬けの日々は加速。空手、キックボクシング、アマチュアボクシングも含め、毎週のように試合に出た。それでも闘いの場から離れればオーラが消えるため、高校時代の友達からは「本当に強いの?」と言われた。

 首脳陣の期待は高い。金天九監督は「パワー、体力があり、ディフェンスのうまさは空手のたまもの。テコンドーが一番強いアジアで、競技歴5年でトップにいる選手はいない」と潜在能力の高さを認める。

 00年シドニー五輪で銅メダルを獲得した岡本依子の後継者として期待される。高2で初参加した代表の海外遠征で同部屋になった。「尊敬するべき存在。でもそこを超えていかないといけない」。自由奔放に振る舞う同じ名前の沢尻エリカとは違い、父仁さんからは「テコンドーを辞めるまで彼氏なんて許さない」と競技一直線を命じられている。「テコンドー界のエリカ様」は2年後の五輪で大きな夢を見ている。【広重竜太郎】※■は金へんに玉