<競泳:日本選手権>◇最終日◇13日◇東京辰巳国際水泳場

 12年ロンドン五輪に出場した女子高生スイマーが復活した。女子200メートル平泳ぎで渡部香生子(17=JSS立石)が2分21秒09と昨夏の世界選手権銅メダル相当のタイムで優勝し、100メートル平泳ぎ、200メートル個人メドレーとの3冠に輝いた。五輪後は不振だったが、シドニー五輪銀メダルの中村真衣らを育てた竹村吉昭コーチ(58)に師事して成長した。

 涙に暮れた1年前とは対照的な満面の笑みだった。昨年9~16位決定戦でビリになった女子200メートル平泳ぎ。渡部は昨夏の世界選手権銅メダルタイムを1秒28上回るタイムで優勝した。「去年とはメンタル面が違う。泳ぎも安定した」と1年間の成長を実感するように言った。

 15歳でロンドン五輪に出場して注目を浴びたが、気持ちは不安定だった。調子が悪いと、人の話を聞かず、すぐにふくれっ面をする。練習時の調子の波もあり、大会前には体調を崩し、ケガをすることもあった。五輪後の不振の原因は技術だけでなく、精神的な未熟さも大きかった。

 昨年5月に指導者を変更したことが転機になる。竹村コーチは登校前の朝の散歩も付き合ってくれた。「思ってることはすべて言いなさい」と、コミュニケーションを深めた。信頼関係を構築した同コーチから「つらいとき、しんどいときこそ笑顔でいなさい」と言われた。心に響き、その言葉を信じた。

 いつも笑顔でいることで気持ちは安定し、いつの間にか反抗期も過ぎ去る。家では3歳下の妹千夏さんとケンカが絶えなかったが、引くことを覚えた。都内が大雪に見舞われた2月、母恵美子さん(47)は転んで右手首を骨折。以前は母と衝突を繰り返したが、今は皿洗いなど、積極的に家事を手伝う。恵美子さんは「気持ちに余裕ができて大人になった」と証言した。

 精神面の波がなくなったことで、疲れていても練習に集中。ストローク数とタイムを完璧に把握し、水泳が楽しくなった。この日も北京五輪代表の金藤に迫られても焦らない。最後まで冷静に自分の泳ぎを貫き、自己ベストも1秒37更新した。「強くなった自分を見せられた。世界で戦うスタートラインに立てた」。もう若さの勢いだけではない。大人になった女子高生スイマーに真の実力が備わり始めた。【田口潤】

 ◆渡部香生子(わたなべ・かなこ)1996年(平8)11月15日、東京都葛飾区生まれ。4歳から水泳を始める。中学3年の11年ジャパンオープンで100、200メートル平泳ぎの2冠を獲得。12年日本選手権200メートル平泳ぎで2位に入り、ロンドン五輪代表。ロンドン五輪は準決勝敗退。昨年は不振で世界選手権は平泳ぎでの出場を逃し、200メートル個人メドレーだけの出場。東京・武蔵野高3年。167センチ、57キロ。