神戸製鋼は無駄を省いて勝つラグビーに徹した。試合には「戦略」がつきものだが、ラグビーでは「戦省略」も必要になる。いかに無駄な「戦」を省いて勝つか。相手の弱みに自らの強みを当てて圧倒する。神鋼は、それを伸び伸びとやった。大きいのは、やはりSOカーター。彼の存在が周囲のレベルを上げた。

神鋼は今季、ニュージーランドで最も尊敬されるコーチのウェイン・スミス氏が総監督に就任した。11、15年にオールブラックスのワールドカップ連覇に貢献した名将の考えを具現化し、チームメートに分かりやすく伝えたのがカーターだ。勝つことに特化し、引き出しを多く持つのがスミス流。その中からプレーを選択するカーターを信頼するから、他の外国人選手たちも今季は本来の力を発揮できた。

カーターのプレーはシンプルで派手さもない。しかし、精度の高さ、判断の早さはさすが。難しいプレーも難しく見せないほどレベルが高い。ゲームを読むのが巧みで、相手との駆け引きにもたけている。決勝のカーターと神鋼には、欠点がなかった。その圧倒的な強さが、55-5というスコアに表れた。(今泉清=元日本代表FB、日刊スポーツ評論家)