<大相撲九州場所>◇9日目◇19日◇福岡国際センター

 大相撲九州場所の優勝争いの行方を左右する一番で、前代未聞の誤審があった。1敗の横綱日馬富士(28)と全勝の関脇豪栄道(26)が対戦。日馬富士の足が土俵外に出たとして、湊川審判委員(56=元小結大徹)が取組を止めさせたが、勝負はついていなかった。やり直しの末、勝った日馬富士は優勝戦線に残り、豪栄道は初黒星を喫した。結び前の注目された一番は、審判の失態で大混乱した。

 立ち合いから押し込んだのは豪栄道だった。右四つで後退した日馬富士は、両足のつま先で俵の上を回り込んだ。土俵の中央へ押し戻しかけた時、向正面の湊川審判が「勝負あった」として右手を挙げた。際どい動きが、混乱を呼んだ。

 これに気付いた立行司の式守伊之助は、両力士の背中をたたいて止めさせた。2人は事態が分からない。そのまま、5人の審判と行司が土俵上で協議を開始。約2分半後、鏡山審判部長(元関脇多賀竜)は「向正面の審判が、日馬富士の足が出たと勘違いし、手を挙げてしまいました。従って、もう1度、やり直しという形でやらせていただきます」と場内に説明した。取組を途中で止め、やり直したケースについて、日本相撲協会広報部は「極めてまれ。少なくとも戦後では、同様の記録は残っていない」とした。

 やり直しの一番は、日馬富士が勝った。突っ張りで攻め込み、もろ差しになって寄り切り。1敗を守った新横綱は、劣勢に見えた最初の一番について「豪栄道のまわしが緩んだのかなと思った。足?

 出てなかったですよ。僕が右四つになって、『よしっ』と思った。どっちかというと、僕の方が有利だった」と振り返った。中断にも集中力を切らさずに勝ち越し。「どっちみち取り直しになると思っていた」とも話した。

 一方の豪栄道は、潔かった。「最初の一番が続いていたら?」と聞かれても「特にないです。負けは負けですから」。「ふに落ちないのでは?」と振られても「ないっす」と答えた。恨み節は一切言わなかった。

 手を挙げた湊川審判は「私は(日馬富士の)左足が着いたと思ったから手を挙げた。回り込んだ時、着いたと思った」と説明。裁いた伊之助は「『勝負あった』と聞こえたので、止めなきゃしょうがない。軍配を上げなくてよかった。自信がなかったから」と言い、土俵まわりの蛇の目には、足跡が付いていなかったと証言した。鏡山審判部長は「ビデオ室で、何回も確認してもらった。どうやら足は着いてない。両力士には悪いが納得してもらうしかない。我々のミスだから、以後気を付けて、みんなで気を引き締めていく」と話した。

 鏡山審判部長と湊川審判は今日10日目、北の湖理事長に謝罪する予定。同理事長は「砂が飛んで、足が出たように見えたんだろう。豪栄道は半身、上手を取って、流れは日馬富士有利な感じがしましたけどね」とし、八角広報部長(元横綱北勝海)を通じて審判部に「しっかりやってください」という指示を届けた。

 全勝の豪栄道に土がつき、白鵬が単独トップに立った。あの誤審がなければ、勝敗はどうなったか分からない。場内の一部からブーイングが起きるなど、納得できないファンもいる。思わぬ誤審で、9日目の大一番は水を差された。