プロボクシングWBC世界バンタム級王者井上拓真(30=大橋)がレジェンドを撃破して初防衛に成功した。元世界4階級制覇王者で同級4位の井岡一翔(37=志成)から2度ダウンを奪う一方的な展開で、3-0の大差判定勝ち。日本男子初の世界5階級制覇を阻止するとともに、9月に挑戦権を持つ同級2位の那須川天心(27=帝拳)との再戦が濃厚になった。
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井上拓の一太刀で勝負の行方が決まった。2回終了間際。右を出そうとした井岡の顔面に狙いすました右ストレートを打ち抜いた。この一撃から一方的な流れになった。動きの止まった挑戦者に連打を畳み掛けて先制のダウンを奪うと、3回にも右アッパーでダウンを追加した。
「最初はスパーリングで練習していたパンチで、右アッパーは得意のパンチ」と井上拓。KOこそ逃したが、その後もスピードと強打で歴戦のレジェンドを終始翻弄(ほんろう)して世代交代を印象づけた。試合後も「すごく楽しい戦いでした」と涼しい笑顔で、頭部の負傷で病院に直行した井岡とは対照的だった。
昨年11月に格闘技を通じてプロ無敗だった那須川に初黒星をつけて世界王座に返り咲いた。その後も緊張感が切れなかったのは、井岡が5階級制覇を狙って挑戦者に名乗りを上げたため。「日本人として井岡選手に初めて黒星をつける」と気合が入った。「この自分を生み出してくれたのは井岡選手」。試合後はリング上で抱き合い、あらためて敬意を伝えた。
24年10月に堤聖也に判定負けしてWBA世界同級王座から陥落。これが転機になった。父真吾トレーナーに世界戦に取り組む姿勢の甘さを指摘され、手首の靱帯(じんたい)損傷も判明。引退も頭をよぎったが、兄尚弥の助言にも背中を押されて「ここで辞めたら絶対に後悔する」と覚悟を決めて再起。練習ではより厳しい道を選び、日々を泥臭く生きてきた。その分厚い土台の上にこの日の勝利があった。
この勝利で、4月に挑戦者決定戦を制した那須川と9月に再戦することが濃厚になった。「決まれば前回同様、しっかり倒すだけです」。武居が敗れ、中谷が階級を上げ、負傷した堤は休養中。いつの間にか群雄割拠の世界バンタム級戦線の主役の座に井上拓がどっかと腰を下ろした。【首藤正徳】

