エースが、負の連鎖を遮断した。巨人菅野智之投手(26)が、7回2失点の好投で8勝目を挙げ、チームの連敗を5で止めた。今季から封印を解き、抜群の効果を発揮するワンシームの割合を減らし、150キロ超の直球で果敢に勝負。今季のテーマ「圧倒」する投球でねじ伏せた。首位広島との差は11のままだが、勝負の9月、10月の戦いを見据えた上でも、エースの勝利は価値ある1勝だった。

 “熱投”する菅野が勝負球に選んだのは、直球だった。2点リードの5回2死、ヤクルト山田に対し、外角149キロで空を切らせた。4回1死から、圧巻の5者連続三振。雄たけびを上げ、拳を握った。「ストレートが良かったので、押していこうと」。スライダー、カーブ、フォーク、ワンシームと豪華すぎる選択肢の中から「圧倒」する直球でねじ伏せた。

 試合さえも、己の力で支配した。「そこのせいにはしたくないです」と真っ向から否定したが、微妙なコースをボールと判定され、4回まで83球。2点リードしながら、どんよりとした試合展開だった。「リズムが悪いといい攻撃にもつながらない。ギア、気合を入れ直した」5回以降の3イニングは、わずか37球。3連続3者凡退で意気消沈させ、7回2失点で8勝目をたぐり寄せた。

 サプライズで訪れた銭湯が、変化へのきっかけだった。8月上旬、大竹寛が銭湯を訪れると聞き、内緒で訪問。夏休み中の子供、常連客で芋洗い状態の中、黒ぶちメガネで湯船につかって、先輩を驚かせた。湯船の中で開かれた投手論は熱湯以上にヒートアップ。中でも、熱を帯びた議題はワンシームだった。

 大竹寛 オレもシュートを投げるから思うんだけど、少し体が開いてしまうことがあるよね。

 菅野 僕もそれを少し感じていて。今、どうしようか悩んでいます。

 今季から封印を解いたワンシームの威力は、抜群だった。ただ、シーズン中盤から、投球フォームの体の開きを実感。周囲が判別するほどの違いはなかったが、シュートを得意とする大竹寛に共感され、意識を改めた。コンマ数センチの変化を求め、魔球ワンシームの割合を再考。モットーの「変わらない信念、変われる勇気」で進化した。

 100球を超えても、152キロの直球で押し通した。「7回120球では話にならないです」と自分に怒ったが、「監督、首脳陣、チームメートが期待するのはもっと上」との思いがあるからだった。「もっともっと、いい投球ができる投手」と高橋監督も同意。巨人のエースは今も、進化の途上にある。【久保賢吾】