<巨人3-1中日>◇9日◇東京ドーム

 こらえていた感情が一気にあふれ出した。これまで何度上がったか分からない東京ドームのお立ち台。巨人阿部慎之助捕手(30)は、ファンの前で初めて涙を見せた。「一番僕を応援してくれた人なんで…。すいません」。7日に祖母喜代子さんが78歳で亡くなった。この日は浦安市の実家に寄って祖母と対面してから球場入りした。「たくさん泣いたので、もう涙は出ないと思ったけど…。本当に打ててよかった。いい報告ができます」。決めぜりふの「最高です」は最後まで出てこなかった。

 天国のおばあちゃんへささげるアーチだった。2回だった。中日チェンのスライダーに体勢を崩されながらも、コンパクトなスイングでタイミングを合わせて右翼席中段まで運んだ。今季、巨人以外のチームに1点も許していない絶好調のチェンから先制2ラン。技ありのひと振りを「体勢は崩れたけど、うまく拾えた」と納得の表情だった。

 これで4試合連続の長打。ようやくスランプを脱したチームリーダーは「これだけ打てないんだから何かを変えないといけない。基本に戻ろうと思った」と苦しい時期を振り返った。主将に加えて選手会長も兼任する今季は、開幕から気持ちが空回りした。強引な打撃が目立ち、持ち前の勝負強さも影を潜めた。得点圏打率は1割台。試合前のフリー打撃は特大のアーチを連発しファンを喜ばせてきたが、ここ数日は流し打ちを繰り返した。この日の試合前もさく越えは1本もなかった。

 不振の阿部と11試合本塁打のなかったラミレスのアベック弾で連勝を4に伸ばした。ここ5戦で10発。豪快な1発攻勢で両リーグ通じて20勝一番乗りを果たした原監督は「チェンは日本を代表するスターター。値千金の本塁打だった」とスラッガーたちの復調に目を細めた。4月は終盤の粘りで何とか勝ちを拾ってきた。だが、重量打線が本来の姿を取り戻した今は“横綱相撲”で相手と向き合える。貯金11で、2位ヤクルトとは早くも4ゲーム差。後続の足音は聞こえなくなってきた。【広瀬雷太】

 [2009年5月10日8時39分

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