<広島2-3巨人>◇27日◇マツダスタジアム

 長野で鬼門突破だ。巨人長野久義外野手(27)が、同点の5回2死三塁、広島先発の篠田から決勝の8号2ランを放った。左手小指をグリップエンドに掛けて打つスラッガー。原辰徳監督(53)からもらった、「グリップを少し小さくしてみては」のアドバイスを実践し、力強いスイングで左翼席へ運んだ。強打の1番が本領を発揮し、今季マツダスタジアムでの広島戦は5戦目で初勝利となった。

 黒光りしたバットが長野の両手からスポンと離れた。同点の5回2死三塁。篠田の内角高めのスライダーに体が反応した。快音を残した打球は左翼2階席へ。今季8号の勝ち越し2ランを、広島の夜空にぶち込んだ。「なんとかランナーをかえしたいという気持ちで打席に入った。感触は良かったです」と、納得の表情で振り返った。

 今季ここまで4戦全敗だった敵地での呪縛を解く1発は、原監督の助言が効いた。リーグ再開初戦の22日ヤクルト戦。打撃練習を見守った監督はバットの末端に注目した。「グリップエンドに指をかけるんだったら、太いと力が入らないんじゃないか?」と指摘した。球場に持ち込んでいた別のバットを見て、「これなら」と薦めた。

 メーカーに発注している4種類のバットのうち、グリップエンドが同僚村田と同じタイプが、監督イチ押しだった。通常のものよりも、グリップエンドが、ひと回り小さくカットされていた。バットを握る“最後”の左小指にまで、しっかりと力が伝わる。素直な耳と技術への探究心が、こん身の一撃につながった。

 助言を素直に聞き入れた男は、試合中のゲキにも即座に反応した。4回表の攻撃前に円陣が組まれ、ベンチから「少し『気』が足りない。気を出していこうと。襲いかかる、そういうとこがなかったので」(原監督)と指令が飛んだ。長野の気も引き締まり、握るグリップにも力が入った。ゴンザレスの復帰戦を飾る決勝アーチで試合を決め「ディッキーが久しぶりの登板だったので。気合入りました」と、うなずいた。

 鬼門だったマツダスタジアムの重い扉をようやく1枚、打ち破った。「ここで全然、打ててなかったので、良かったです」と安堵(あんど)感も漂わせた。だが、通路で立ち止まることなく「また、明日も打てるように頑張ります」と、最後はいつものセリフだった。ヒーローは打球の白い痕跡が残った“相棒”を大事そうに抱え、バスに乗り込んだ。【為田聡史】