<DeNA12-10巨人>◇10日◇横浜

 DeNA中畑清監督(59)が執念の勝利を飾った。恩師の巨人終身名誉監督の長嶋茂雄氏(77)が観戦する巨人戦。1点を追う9回裏1死一、二塁から多村が右翼スタンドへサヨナラ本塁打を放った。一時は7点リードを奪われながら、5本塁打を含む18安打を放ち逆転に成功した。これが今季の巨人戦初勝利。試合前は右中間上方に登場した「キヨシさん!勝って!!」という看板広告に不快感を示し、布で隠す応急処置がとられる騒動もあった。怒りの後、最高の喜びが待っていた。

 多村の打球が右翼スタンドに飛び込むと、中畑監督は一塁側ベンチを飛び出して何度も何度も跳びはね、無邪気に喜びを爆発させた。9回裏1死から高城と代打後藤の連打で作ったチャンス。スタンドの興奮もピークに達していた。「ベンチの中でぶち込め、ぶち込めって言っていたんだ。もう気持ち良すぎて何て表現したらいい?

 監督になって一番うれしいよ」と、一気にしゃべりまくった。

 恩師長嶋氏の前で、まさに「メークミラクル」をやってのけた。7点差で迎えた7回。長嶋氏も帰宅しようとしたときだった。代打白崎から7連打で6点を奪い1点差に詰め寄る。去年までなら完敗だった。今年は先発が試合を作れば、必ず終盤に逆転できると言い続けてきた。その言葉の力を教えてくれたのが長嶋氏だ。「10・8の勝つ、勝つ、勝つ、ね。みんなその気になっちゃう」。今年のチームキャッチフレーズが「勝」だ。今年は勝ちにこだわるとナインを鼓舞し続け、野手には諦めない姿勢が生まれてきた。

 特に成長著しいのが外野陣。「外野の争いは半端じゃない」と手ごたえをつかんでいる。好調の松本を休ませたり、この日は疲れの見える井手を休ませた。代わりに使ったモーガンまで来日初アーチだ。荒波、金城も加えて誰がスタメンでもおかしくない。そこに故障明けで出場選手登録されたばかりの多村まで活躍する。守備の不安のあるラミレスをスタメンから外してから8勝5敗と、勝ち越している。

 長嶋氏には弱いところを見せたくなかった。今年の3月、恩師の壮絶なリハビリのドキュメンタリーを見て号泣した。「命がけのリハビリだね。あんなつらいことをして…。そのことを考えたらね。オレは絶好調がキャッチフレーズだから、ずっとそうでなければいけないと思わせられたよ。元気のないところなんて見せられない」と、神妙に話していた。

 開幕前に食事に誘われたときには「お前のところはよくて4位だな」と言われたと笑っていた。「長嶋さんには立場上は複雑だと思うけど。いい野球を見せられたと思う」。長嶋氏も1年目は最下位だった。伝説の伊東キャンプで鍛えられた。ベイスターズも昨秋は松本、荒波らを奄美大島の秋季キャンプで鍛えた。常に長嶋氏の背中を追ってきた。試合前には看板騒動もあったが、すべてを吹き飛ばすミラクル逆転勝ちを師の前で演じた。【矢後洋一】