<阪神1-3DeNA>◇16日◇甲子園

 宇宙人からエースに変身だ!

 DeNA井納翔一投手(28)が8回1/3を6安打1失点の好投で、ハーラートップタイの6勝目を挙げた。最速150キロの直球とキレのあるスライダーを軸に阪神打線を翻弄(ほんろう)。今季、チームの連敗を3で止めたのは、これで3度目。不思議な言動から宇宙人と呼ばれてきた男が、相手のエース能見に投げ勝つ、力強い投球を披露した。

 井納は堂々と、臆することなく内角を突いた。4回2死一塁で打席には新井良。初球に選んだのは内角へ直球。前回4月26日の対戦では2発食らった相手。「意識しました。前は2球目、初球を打たれた。今日は真っすぐもよかったですが、スライダーもよかった。それをどう生かすか考えてインコースにしっかり投げていきました」。148キロで体を起こしてからのスライダーで追い込み、空振り三振。2三振を含む無安打に封じ、雪辱してみせた。奪った三振は今季最多の9。「三振はアウトを取ることのおまけです」とさらりと言ったが、これが攻守のリズムを作った。4回までイニング最後の打者を全て三振。走者を出してもテンポよく回を締め、攻撃につなげた。「(三振を)取りにいったのではなく、球数を少なくしようとした結果」が、6回以外は20球以内という、自身のリズムも生み出した。

 全ては、先発として1試合を投げきるため。プロ入り初の完封を逃したことに「(意識は)ないわけではなかったです」と正直に打ち明けた。9回、マートンに0-2から浮いたスライダーを打たれ1死一、二塁としたところで降板。一瞬、悔しさをのぞかせたが「甘く入って打たれたのが(交代の)要因。監督からまだまだ十分な信頼を得られていない。次回はきっちり投げたい」と受け止めた。

 交代を判断した中畑監督は「最後まで攻めて終わらせないといけない。追い込んでから、あの失投」と厳しく指摘しながらも「(井納を)6勝させるため、連敗を止めるため。うちのエースだね」と、力投をたたえることも忘れなかった。

 ルーキーだった昨季、不思議キャラから宇宙人という愛称もついた。だが、投球以外で注目されることに、「今季は野球で目立つ」と誓いを立てていた。エースという言葉にも「まだまだ」。さらに『脱宇宙人?』という問い掛けにも「まだです」。試合の最後までマウンドを守り抜き続け、1年を全うした時、井納の枕ことばが変わる。【佐竹実】

 ◆井納の宇宙人メモ

 井納が「宇宙人」と呼ばれるのはマイペースすぎる言動から。「変わっているってことは、自分でも分かっているんですけど」と自身も認識している。昨年11月には故障した愛車の修理中に、代車での走行距離は約4000キロに及んだ。今春の沖縄・宜野湾キャンプでは、ブルペン投球を見守ったフォークボールの神様、杉下茂氏に呼び止められるまで気付かないなど、“逸話”は多い。また、一部では、目鼻立ちのくっきりした顔がお笑い芸人の「小島よしお似」と言われ、野球以外の面でクローズアップされることが多かった。この日の試合後の取材でも、ひと言発した後、「ちょっとトイレ行っていいですか。ずっと我慢してたんで」と中座。好投してもマイペースぶりは変わらない。

 ▼DeNA井納が昨季の5勝を上回る自己最多の6勝目。巨人菅野に並びセ・リーグのハーラートップに立った。DeNAの投手が5月までに6勝したのは、99年福盛(6勝)以来15年ぶり。DeNAの最多勝利は93年野村(17勝)が最後。現12球団で最も最多勝から遠ざかり、00年以降は12球団で唯一15勝以上の投手が出ないチームだが、タイトル争いに絡むか。