WBO世界ミニマム級2位の田中恒成(19=畑中)が、日本人最速5戦目で世界王座を獲得した。同1位フリアン・イエドラス(27)を12回3-0の判定で下した。井上尚弥の持つ国内記録(6戦目)を更新し、史上4人目の10代世界王者が誕生。父斉(ひとし)トレーナー(48)に厳しく育てられた高校4冠の「中京の怪物」が、重圧をはねのけてベルト奪取に成功した。田中の戦績は5勝(2KO)。

 勝利のコールを受けると、田中はホッとしたように笑みを浮かべた。日本人最速5戦目で得た世界王座。「目指してきた場所に来た実感はないです。本当に疲れました」。喜ぶより先に、ひと息ついた。

 高校4冠の「中京の怪物」が苦しんだのは、己の中の敵だった。プロデビュー戦では異例の世界ランカーを退け、4戦目で東洋太平洋王者を破り、誰より早くこぎつけた世界戦。「負けたら終わりじゃないけど、頑張ったとは言えない」。重圧に苦しみ、中盤は足が止まる。だが、気力を振り絞った。もう1度足を使い、スピード十分のパンチをまとめた。「ここだけは勝たなきゃいけない試合」。8回は左右ボディーから、強烈な右でのけぞらせた。

 壮絶な鍛錬を経て、少年は「怪物」になった。3歳の時、2つ年上の兄と空手を始めた。稽古以外でも、柔道黒帯の父斉さんに厳しく鍛えられた。「腕立て伏せでも何回何セットじゃない。200回やれと言われて、やっても終わりじゃない。エンドレスだった」。

 小学校入学前、股関節疾患のペルテス病を患った。激しい運動のやり過ぎで骨盤がすり減り、右足が左足より短くなった。1年間、地面に右足がつかなかった。それでも、稽古は続けた。「痛いとか言わなかった。オレが親なら絶対子供にはやらせない。でも、今となれば父に感謝です」。小5で始めたボクシングでも、血を吐くまでパンチを打ち続けたこともある。並大抵の試練や痛みに屈しない、怪物の根性がこの日の大舞台で生きた。

 史上4人目の10代世界王者。伸びしろは十分ある。今後について「今は考えられない」と答えた田中だが、IBF王者高山との統一戦や、井上尚弥が持つ8戦目を更新する最速2階級制覇へ夢は広がる。超高速で頂点へ駆け上がった田中が、ボクシング界の主役へと動き始めた。【木村有三】

 ◆田中恒成(たなか・こうせい)1995年(平7)6月15日、岐阜・多治見市生まれ。市之倉小6年時から本格的にボクシングを始める。中京高ではライトフライ級で国体2連覇など4冠。13年11月プロデビュー。14年10月の4戦目で東洋太平洋ミニマム級王座獲得。現在中京大経済学部在学中。家族は両親と兄、妹。163センチの右ボクサーファイター。

 ◆日本人最速世界王者 田中の5戦目が最速。14年4月にWBC世界ライトフライ級王者エルナンデスに6回TKO勝ちし、6戦目で奪取した井上尚弥の記録を更新。海外では、75年にWBC世界スーパーライト級王座を獲得したセンサク(タイ)と、北京&ロンドン五輪金メダルで14年6月にWBO世界フェザー級王座を獲得したロマチェンコ(ウクライナ)の3戦目が最速。