連載「取材ノートから」では、担当記者が今季を振り返る。今回はボクシング編。

 米国を「憧れる」時代は終わった。そう強く感じた試合だった。11月21日、米ラスベガスでWBC世界スーパーフェザー級王者三浦隆司(31=帝拳)が5度目の防衛に失敗し、2年7カ月守った王座から陥落した。今年の中ではパッキャオ-メイウェザー戦に次ぐ大型興行のセミファイナル。これまで日本人が立ったことのない大舞台で壮絶な打撃戦を繰り広げ、会場を埋めた約1万2000人のファンを熱狂させた。

 現地で取材した記者自身も「負けはしたが…」といった肯定的な記事を書いた。だが、時間がたつにつれ「勝ってほしかった」という悔しさにも似た感情がこみ上げてきた。13年4月、日本ボクシングコミッションも世界の流れに乗る形でWBOとIBFを承認し、「4団体時代」に入った。王者が増えた一方で、その価値は薄れたとも指摘され、「誰が強いのか分かりにくい」というジレンマにも陥った。

 錦織が壁を突き破ったテニス、W杯で感動を呼んだラグビーがそうだったように、国内のスポーツの盛り上がりは、その競技のトップが世界のどの位置にいるかが大きく影響する。WBCのスライマン会長が「これぞボクシング。年間最高試合だ」と興奮した口調で振り返ったほどの激闘を三浦が制していれば、日本ボクシング界に漂う閉塞(へいそく)感を一気に打ち破る可能性さえあった。だからこそ「勝ってほしかった」。

 11年10月、西岡利晃が日本人として初めて米国本土で王座を防衛し、時代は大きく変わった。12年に1試合だった日本人選手の米国での世界戦は今年5試合に増えた。三浦の試合直後、世界的プロモーターである帝拳ジムの本田明彦会長は言った。「よく頑張ったが、パッキャオはこういう大事な試合にすべて勝った。だからあそこまでいけた」。

 これから先、求められるのは大一番での結果以外にない。パッキャオ-メイウェザーの「世紀の一戦」で、両者のファイトマネーは合計で350億円を超えた。ボクシングには他の競技に負けない夢と爆発力がある。内山、井上らの米国進出がうわさされる16年が、大きな節目になってほしい。【奥山将志】組

 ◆三浦の防衛戦VTR 同級1位の指名挑戦者フランシスコ・バルガス(メキシコ)と対戦。初回に左フックでぐらつくなど序盤は劣勢も、4回に強烈な左ストレートでダウンを奪う。8回終了間際には連打でKO寸前まで追い込んだ。バルガスの右目下の傷が深刻となり、レフェリーが「(傷口が広がれば)この回が最後」と通告した。続く9回開始直後、三浦はアッパーを食らってふらつくと、左フックでダウンを喫した。どうにか立ち上がるも一気の連打を集められ、同回1分31秒にTKO負け。米ケーブル局大手HBOのPPV(ペイ・パー・ビュー)に日本人として初めて起用された一戦は、全米ボクシング記者協会の「年間最高試合」候補に挙がった。