元WBA世界スーパーフライ級王者の名城信男(26=六島)の陣営が、史上初の『じゃんけん世界前哨戦』を制した。同級王座決定戦(15日、パシフィコ横浜)に出場する名城は同級3位の河野公平(27=ワタナベ)と使用するグローブの交渉が難航。この日、両陣営は都内でグローブ選択権獲得じゃんけん12回戦を行った。名城の代理で参加した六島ジムの枝川孝会長(44)は11回目のじゃんけんで、7勝目を挙げ、グローブ選択権を獲得。名城の希望するメキシコ・レイジェス社製の使用が決まった。

 不思議な光景だった。大の大人たちが、まじめな表情でグー、チョキ、パーを出し合う。グローブ選択権を懸けたじゃんけん12回戦。メキシコ製を希望する名城の代理の枝川会長と日本製を譲らない河野が、都内の一室で向かい合った。11回目に勝利を決めた枝川会長は「11回KO勝ちや」と真顔で喜んだ。真剣勝負のせいか、奇跡的にあいこはなかった。

 枝川会長は、大阪で練習中の名城にじゃんけん勝負を託された。グローブ選択が勝敗を左右する場合もある。東京に向かう新幹線車内では重圧に苦しんだ。しかし、名古屋から偶然、女子レスリングの北京五輪メダリストの伊調姉妹が同じ車両に乗ってきた。「ついてるなと。勝てると確信しました」と吉兆をもたらした伊調姉妹に感謝した。

 河野はボクサーとしてのこだわりがあだとなった。前日、母親とも相談し、拳=グーで勝負することを決断。だが、初回からグーで連敗し、リズムが狂った。一方で、枝川会長は「緊張したら拳を握ってグーを出すんや」とニヤリ。頭脳面でも完敗だった。

 枝川会長は、大阪に残った愛弟子に「試合でも11回KO勝ちと宣言しておく」と喜びの報告。敗れた河野は「ショックです。グーにこだわり過ぎた。でも試合ではグーで思い切り握って勝ちますよ」と必死で気持ちを切り替えた。名城が慣れたグローブで勢いづくのか、それとも、河野がじゃんけんの悔しさで「ハンディ」を乗り越えるのか。ガチンコじゃんけんで、本番のリング上も楽しみになってきた。【田口潤】